伊藤探偵事務所の爆発8

未来さん:「えーっと、窓開けましょうね 熱いから」
慌てたようにばたばたと窓のカーテンを開ける。
意味深な言い方に、照れたようである。
年は、そう 僕よりも少し上 端麗な顔つきに落ち着いた物腰。年上らしい人ですが、どうも 突然の事態に弱いようで総崩れになってしまう。
カーテンを開けても、風が入ってくるわけではないので顔のほてりが解消されるわけではないのですが、思わず体が動いてしまうようです。
それよりも、カーテンを開けてしまうとここの場所が知れてしまうのに・・・
どうもやはり、拘束したりするのが目的ではないようだ。
窓は背の高さほどもある大きな物で、壁一面が見渡せる。
外は、時間すらも解らなかったが日が昇っているのか、落ちているのかオレンジ色に光っている。
周りにこの高さに匹敵する高さの建物が無いので、良く見渡せる。
海と、特徴的なテレビ局の建物がそう遠くなく見えることから 海浜地区だと言うことはわかった。
どころか、地図さえあれば 外から見ればという状況であれば建物を特定することは僕にも難しくないだろう。
やはり、気が焦っていたのか 枕カバーやアメニティにはホテルのマークが付いており、僕ですら見覚えのあるマークから自分の場所を特定できた。
“メールだよ!!”
可愛い少女の声が、部屋に響いた。
今度は僕の顔が赤くなった。
僕の携帯電話が鳴った。
秋葉原の入り口で配っていたティッシュのアドレスにアクセスしたらもらえた待ち受け音声である。
メイド服を着た娘がくれたものなので、想像はしていたがそのままにしてあったのを忘れていた。
「ちょ、ちょっと失礼します」
慌てて、メールを開いて読んだ。
内容は、大したことの無いメールだった。大したことが無いというよりもただのいたずらメールである。
“あの夜は楽しかった。又連絡が欲しい”みたいなことが扇情的な言葉で書いてある。
「あっ、」
見られている可能性があるので、慌てて隠した。
未来さん:「何か大事なお仕事のメールですか?」
と聞かれた。
「いえ、ち 違います。私事です」
未来さん:「まあ、そんなに慌てられるんでしたら よほど良い方からのメールなのですね」
にっこりと話された。
「いえ、そんな人 いません」
言い切って 尚、恥ずかしい思いをした。
恋人がいないって断言できるほうが恥ずかしい。
未来さん:「そうですか、おもてになりますでしょうに」
「そ、そんな もてたことなんてありませんよ」
ああ、どんどん墓穴を掘ってゆく。
考えるより、反射的に口が反応する。
どんなに経験を積んでも、三枚目は三枚目のようだ。
未来さん:「おばさんで良ければ立候補いたしますのに」
「えっ?」
どきっとした。
ドキッとしているような状態ではないのだろうが 所長やarieさんのが移ってきた様で だんだん感覚がおかしくなってきているようだ。って、今頃気がつくようでは 随分感覚がぼけてきているようだ。
未来さん:「あっ、あの 冗談のつもりだったんですけど、余り面白くは無かったですね?」
すまなさそうにいう。
「えっ、いえ、違うんです。いえ、そんなことなら喜んで」
未来さん:「えっ、」
また、顔を赤らめて下を向いてしまった。
あせって、失敗が続く。
相手は、冗談だといっているのに 真面目に答えてしまった。
それは、言ったほうが恥ずかしくなってしまう・・・・
空気が固まってしまった。
「えーっと、その 隠れくまのみは笑いにうるさいんで!」
空気を変える為に渾身のギャグを・・・
未来さん:「隠れくまのみって? あのお魚さんですか?」
それは、年配の方の中にも解らない人がいると思いますが、出来たら世間で流行っていることには 敏感になられたほうが・・・・
でないと・・・・説明の必要なギャグほど悲しい物は無いですから。
「映画は、あまり見られないみたいですね?」
未来さん:「映画の台詞なんですね」
いや、映画というよりも・・・実際は、見たことが無くてテレビの宣伝で覚えただけなんですが、お陰で 図らずもがな空気が入れ替わって重い空気が抜け落ちた。
その後、すこし話が出来た。
勿論、ここに拘束された訳や この後どうなるかは聞けなかった。
しかし、携帯電話に出られたことから、そして 窓が開けられたことからも自由を奪ったり、拘束したりするのは一時的なものだと想像できた。
ただ、彼女が荷物を片付けなければいけないといった言葉から、一日、二日でけりの付く無いようでないことは想像できた。