伊藤探偵事務所の爆発7

所長:「あまり高級なところは 性に合わないんですが」
依頼主:「ご希望でしたら、お話を通させていただきますが?」
ステーキを食べるナイフを数センチ軽く引き上げた。
黒いドレスを着た女性が数人テーブルに呼び寄せられた。
所長:「専属のホステスの要るほど難しい料理を頼んだつもりは無かったんだがね」
依頼主:「そうですか? この後料理をおこぼしになるかも知れませんので その対処もさせて頂きますが」
所長:「じゃあ、こぼす場所も選ばないと」
所長が目配せしただけで、一人の女性が所長の席の隣についた。」
他の女性は頭を下げて、そのまま引き下がった。
ぬりかべさんは黙々と食事を取っている。ああいった駆け引きには(駆け引きというほど高級なものではないとは思うが)興味がないようである。
所長:「この女性にも食事を、飲み物はワインで宜しいですか?」
女性は 口を開く訳ではなく、静かに小さく頷いた。
女性の横から給仕がグラスを差し出し、ワインを注ごうとするのを遮り 所長が自らワインを注いだ。
座りなおしたときには、椅子の場所がより女性に近づいていた。
ぬりかべさんの苦笑。
所長:「乾杯!」
依頼主のグラスは空を切ったが、二人のグラスはガラスの甲高い良い音がした。
わざと左手で、グラスを持っているのは女性の居る方の手を自由にするためで普通に右手でグラスを持った女性は 乾杯のために体を横に向けている。
ぬりかべさんのわざとらしい咳払いすら聞こえてないようであった。
 
arieさん:「ふぅ、疲れちゃった」
erieriさん:「もう、年なんじゃない」
arieさん:「煩い!!」
erieriさん:「着いたみたいよ、ようやく」
arieさん:「もう、5分歩けといわれたら あんな坊や見捨てて帰るところだった」
erieriさん:「で、どうするの?」
arieさん:「決まっているでしょ、お茶飲むのよ」
そこは、ホテルのロビーだった。
もちろん、ロビーにはお茶を飲む施設があった。
arieさん:「ゆっくりここで待ちましょ、夜まで・・・」
erieriさん:「ここの、紅茶はいけるのよ なかなか?」
 
「大丈夫です、何も見ていませんから」
部屋の中を見られた事より、慌てて走った事がはしたなかった事に照れているようだ。
可愛い女性であると思った。
「では、部屋に戻りましょう」
ただ、外に出ようとしたのを止められたのか、それとも本当に部屋を見られたくなかったのかは解らなかった。
ただ、ここにいると話をしにくそうだったので部屋に戻る事にした。
椅子に座りなおして、コーヒーを飲みながら話を始めた。
「で、どうして僕はここにいるか説明いただけますか?」
女:「もう少しお待ちいただけましたら、ご説明させていただきます。もう少しだけお待ちください。」
「なるほど、では いつ家に帰れますか?」
女:「お話が終われば、いつでもお帰りいただけます。」
「今は?」
女:「出来ましたら、おみえ頂きたいと思うのですが どうしてもとおっしゃるのなら」
困った顔で、返答した。
「すいません、困らせるつもりはありませんでした。 また、呼び出される度に殴り倒されるのは嫌なのでここにいるようにします」
女:「その節は失礼いたしました」
本当にすまなさそうに謝る女性。
「冗談です、すいません」
良く考えたら、無理矢理連れ込まれたのは事実なのだから謝る必要は無いのだが 何故か彼女の顔を見ていると謝ってしまう。
なんとなく、守ってあげないと駄目だと思わせる何かがある。
「そんな事より、一つお伺いしても良いですか?」
話題を変えた。
女:「私にお答えできる事でしたら」
「えーっと、すいません」
質問内容を何も考えていなかった。
僕は言葉に詰まった。
女:「なんでもも聞いてくださいね」
「じゃあ、お名前を聞いても良いですか?」
女:「あっ、あの 未来と申します」
顔を赤らめて返事をした。誤解を生むような聞き方だった。