伊藤探偵事務所の爆発9

erieriさん:「いつまでここに座っているのよ?!」
arieさん:「いい男が来るまで・・・ってどう?」
すでに、ここに座って約二時間、三杯目のコーヒーを飲み干してerieriさんが痺れを切らした。
事実、いい男は現れなかった。
かなりの高級ホテル、夕方とはいえこんなところに来るのは自立心の無さそうなぼっちゃんか 少しくたびれたサラリーマン。でなければ ちゃんと相手のいる男たちだった。
ナンパする場所としてはあまりいい場所とはいえなかった。
ましてや、十人並みの美貌は目を引くが 近寄りがたい雰囲気をかもし出している二人のうち、一人の表情がイライラしていれば、誰一人近づくものはいなかった。
arieさん:「ほらほら笑って、そんなんじゃいい男来ないわよ」
erieriさんの唇を両方から引っ張って無理に笑い顔を作ろうとした。
勿論、引っ張っても笑い顔にはならない ただ、口が一文字になるだけ、ましてや目は完全に怒っている。
erieriさん:「ふざけないで! あたしは帰るわよ」
立ち上がったerieriさんは、完全に怒り心頭の表情で言った。
arieさん:「帰りたければどうぞ 付き合ってと頼んだわけじゃないわ」
erieriさん:「あんたのところの若いのがさらわれたのよ」
arieさん:「そうね、出歩くなって言ったのに 自業自得ね」
erieriさん:「助けに行かないの? ここまで追ってきたんでしょ」
arieさん:「追ってきたのはあなたでしょ」
erieriさん:「どういう意味?」
arieさん:「日も暮れたし、そろそろ気がついて、次のステップに移る時間でしょ。次の場所に案内したいのならそういったらどう?」
erieriさん:「どういう意味?」
arieさん:「ここまで騙された振りをしてついてきたげたんだから十分でしょ」
erieriさん:「そう、解っていたのね。なかなかの名演だと思ったんだけど」
イライラした表情が一転して、穏やかな微笑みに成った。
そして座りなおした。
erieriさん:「さすがね、で付いてきてくれるのね」
arieさん:「最初から、そうしているでしょ」
erieriさん:「大人しく付いてきてくれるんだったらもう少し時間が有るわね、どこで気がついたの?」
arieさんが、その推理を話し始めた。
 
ポイントは、相手の男たちの態度。
明らかにやられることを覚悟で来た。
勿論、火器も持っていて殺すつもりで来ていたにせよ そんなことが可能とは思えない。
明らかに予定されていた、秩序ある撤退行動。
それが、府に落ちなかったようだ。
もし、僕を殺すつもりなら さらう瞬間に出来たはず。
殺せない状況で襲ってきて、僕だけをさらうということは、殆ど不可能な確立であった。
その確立を上げるために、というより確立を間違いないものにするための方法がerieriさんの登場であった。
erieriさんが守っているからこそ、arieさんの注意がそれてさらうことを可能にしたのである。
勿論、正面切ってさらう方法もあったが その方法を取ると、いっしょに来る保証も無かったし、こんな一般のホテルのような見え見えの場所には来なかったであろう。
 
erieriさん:「だから、こんな回りくどいのは嫌だって言ったのよ。向いて無いでしょ」
arieさん:「単細胞には無理って教えてあげればよかったのに」
erieriさん:「当初の予定通り、後ろから殴り倒せばよかったわ」
arieさん:「で、行き先は ここの最上階のレストラン?」
erieriさん:「そうよ」
arieさん:「このホテルで個室のあるのは、そこだけだからね」
erieriさん:「じゃあ、いきましょうか」
 
外が暗くなってきて、ビルに写るひが沈みきった。
未来さんは、日本的なものが好きな大和撫子という表現がぴったりな女性だと言うことはわかった。
“ぐ〜”
お腹が恥ずかしい音を立てた。
気が落ち着くと解るのだが、朝に事務所を見に行って殴られて、何日目の夜かは解らないがお腹が空いているのは当たり前だ。
未来さん:「おなかが空いてられますようですね。少し早いのですがお食事に致しませんか?」
「そうですね、ルームサービスでも取りますか?」
おそらく、お金は相手持ちなので言ってみた。
未来さん:「レストランを予約していますので一緒にいかがですか?」
「外ですか?」
未来さん:「いえ、このホテルの中のレストランを予約しておりますがお気に召しませんか?」
「いえ、そんな」
ホテルのレストランに、つまり外に行くんだ。
人前に出ることすら大丈夫って事だろう。
「いえ、決してそんなことは」
未来さん:「良かったですわ、すぐにご用意いたします。」
ばたばたと、部屋に走ってゆく。
そして、数分で服を着替えて出てきた。
少し眺めのドレスに着替えてゆくことから、ちゃんとしたレストランなんだろう。
「えーっと、お願い一ついいですか?」
未来さん:「はいなんでも」
「この格好では、少し恥ずかしいのですがなんとかしていただけませんか?」
未来さん:「ご安心ください。ちゃんと個室を取っておりますので 入り口でネクタイをしていないからと入れてくれないことはありませんわ。」
「いえ、そちらじゃなくて・・」
確かに格好は、暑いからジーンズにTシャツである。
「これを、お願いしても良いですか?」
両腕を、未来さんの方に差し出した。
両腕には、おしゃれなアクセサリーが付けられていた。手錠と言う・・・
未来さん:「あっ、すいませんでした・・・」
すぐに外してくれた。
どうも、外すのを忘れていたようだ・・・・