Miss Lは、ローズバスが大好き 2

勿論、唯一の高層マンション。恐らく価格も高層なので やはりオートロック。
そういえば、ここまで書いていて部屋番号が書いていない。
17階の・・・、と、入り口は番号のついた入力端末が。
FAXには、謎の4桁の番号が 勿論この暗証番号に違いない。キーボードで「呼」ボタンを押して 4桁の数字を入力する。
「ぴっ」スタッカートの効いた電子音がして、エラーの赤いLEDが点灯する。
??
この数字じゃないようだ。
17階はこのマンションの最上階。下から見ると大きな窓が繋がる見晴らしの良さそうな建物。
「あっ」 気が付いた私は 郵便受けをみて名前の書いてないポストで事情を察してインターフォンで呼び出した。
「あの〜、あたし・・・」
オートロックのドアが開き、招き入れられた。
エレベーターは高速であっという間に最上階まで上がっていった。貧乏人にはなれない感覚なので気持ちが悪い。
エレベーターの出口に、少し高級そうなドアがある。
大き目の木の一枚板は、重そうに見えたが開閉は軽く出来た。
「すいません あの〜」
あまり高級そうな家に来ると、自然に腰が曲がってしたから覗き上げるように前を見てしまう。
Mr.G:「いらっしゃいませ lady」
大きな皮の椅子が奥のほうでくるっと方向を変えてこちらを向いた。
目鼻立ちがはっきりした、形のいい顔立ち。白い肌は育ちのよさを伺わせる。
ただ、虫唾が走るのは 人のことをladyと恥ずかしげも無く呼ぶ言い方。
そして、確かに綺麗な顔立ちだけど 土台が悪い。
ドラえもんじゃないんだから、まあるい土台に綺麗な目鼻を書いたら帰って不気味じゃない。例えて言うなら、赤ちゃんの遊ぶ起き上がりこぼしのような印象。
Mr.G:「私の顔に何か付いていますか? 私のことはGとでも呼んでください」
嫌味も含めて ちゃんとそう呼んだ。
「はいMr.G お仕事の事をお伺いして宜しいでしょうか?」
一応、にっこり笑顔で答えた。こんなところでも働ければ嬉しい。明日のご飯を心配しなくていい。
Mr.G:「このパソコンは使えますか?」
目の前には、高そうなパソコンがある。
お決まりのマイクロソフトの オフィススイートが入っている。
「はい、大丈夫だと思います。」
Mr.G:「じゃあ、今から言う事をメモしていってください」
「は、はい」
これからテストされるようだ。
Mr.Gと言う男は喋りだした。
Mr.G:「男の年齢は28歳、高校を中退した時は18歳。・・・・」
人のプロフィールを読み上げるように すらすら喋りだした。
そのまま、延々約2時間殆ど途切れずに喋りつづけて 大きなため息で話を締めくくった。
Mr.G:「プリントアウトしてもらえますか?」
喋っている間中、背を向けていたMr.Gは こちらに向きなおして喋った。
「はい」
訳もわからず打ちつづけた文章を印刷して、Mr.Gに渡した。
今度は机に向かって文章を読み出して、何箇所かペンで直して返してくれた。
Mr.G:「この印の付いたところを修正してもらえますか?」
印の付いた文章を直し始めた。顔から火が出そうになった。
間違えているのは、入力中の誤変換だけで 文章自身の修正は1ヶ所も無かった。
「出来ました」
もう一度、読み直したMr.Gは にこっと微笑んで 
Mr.G:「ありがとう、今日はこれぐらいで 又明日お願いします」
「はい?」
Mr.G:「ここの仕事はお気に召されなかったのですか? Lady」
「いえ、雇っていただけるのですか?」
Mr.G:「はい、お見えになったときからそのつもりで。何か条件のようなものは他にありますか?」
「いえ、ただ そのladyと呼ぶのさえ止めていただけましたら」
困った顔をして、しばらく無口に考えていた。
言わなくて良い事を言ってしまったみたい。
Mr.G:「じゃあ、Miss.Lと呼ばせていただきます」
ドキッとした、私の学生時代のあだ名がMiss.Lだったからです。
勿論知っているはずは無いので、偶然だと思うのですが。
私は、体は小さいほうなので LといってもLargeのLではなく LittleのLだったのですが そのうち、LimitのLって呼ばれるようになるのですが・・・
まあ、就職が決まったので良しとするか って。
Mr.G:「この呼び方でしたら良いようですね では、又明日」
お断りするタイミングを失ったので、そのまま挨拶をして今日は家に帰った。