Miss Lは、ローズバスが大好き 11

トーストの焼ける匂いはいい匂いで、その匂いを嗅いだだけで朝である事を思い出させる。
そう、朝の日差しが眩しい・・・
「あっ!あさ?」
慌てて起き上がった。
昨日寝なれないところで寝られなかったのが原因なのか、それとも
どちらか解らなかったが、寝苦しかった事は確かである。広がる視界には他に高い建物がないので全てが見渡せる。
イグドラシル」と呼ばれるこのマンションは、その名のとおり小野町の唯一の高い建物だから視界を遮るものが無い。
今まで、道路を歩く人のささやき声がといっても、聞えるのは酔っ払いの叫び声ぐらいだが ともあれ、そこに比べれば明らかに環境がいいように思われる。
しかし、この寒さに冷たさで答える布団と違うそのもの自身が私の体温よりも常に暖かい敷布や、押せば引っ込む柔らかいマットレス。羽根のように軽い布団。どれをとっても慣れなくてどうにも眠りが浅い。
その上、夜中には何度も雷がなるのを聞いた。
殆ど平屋のアパートに比べて、背の高い建物から見る雷は建物より下に落ちる火柱が珍しくというより 怖くてうまく寝付けなくなる。
まるで、一昨日見た悪魔のような生き物がその中から飛んできそうに思えたからである。
それでも、やはり包み込むようにそして暖かい布団に抱かれていると 寝苦しいはずなのに何時しか眠ってしまった。
何時しかは、朝に近い時間ではなかったかと思いましたが 確証はありません。
とにかく、こんな事をゆっくり考えている場合じゃない、時間は10時5分 たった2時間5分の遅刻だが、昨日の今日で職場に泊まった上に これじゃあ合わす顔が無い。
取るものも取り合えず部屋を飛び出した!!
「おはようございます!」
事務所に駆け込んだが、いつものとおりMr.Gはソファーに埋まっているようだ。
すぐには声が聞えない。
Mr.G:「ゴホッ! ゴホホ」
何か突然大きな咳をする。
こちらを向きかけた、Mr.Gはそのまま向こうを向いてしまった。
Mr.G:「失礼しました、突然でしたので コーヒーを吹き出してしまいました。」
そういえばコーヒーの匂いも部屋中に漂っている。普通だったらトーストの匂いよりもコーヒーの匂いに先に気がつきそうなものだが、いかにおなかが空いていたかが良く解る状態だった。逆にいえば、おなかが空いたので食べ物の匂いで目を覚ましたって事!!自然と顔が赤面した。
Mr.G:「よく眠れましたか?」
ん?、これは遅刻した事に対する嫌味なのか、それとも本心なのか? 恐らく後者でしょう怒っている様子も無い。少しほっとしたらおなかが空いてきた。
さっきから食べる事しか考えてないような気がする。
「はい、寝すぎてしまいました すいません。」
Mr.G:「いや、仕事があったわけでもないので 起こすのもどうかと思っていましたので・・ それより、Miss.L もうすぐ来客予定ですのでその格好は直された方がと思うのですが?」
職場の中に寝泊りしているのはとても良い事で、起きたら通勤時間無しで職場に入れる。
しかし、逆にいえばそのまま出れば職場なんだった。
朝起きたそのままの格好で外に出てきた。
昨日のは、着の身着のままここに来たんだった。寝巻きなんて(元々持ってなくて、高校時代のジャージで寝てるんですが)持ってなかったので 先日頂いた中で一番寝ていてごろごろしない服 薄くて楽な服。
シースルーのインナーを着て寝た。勿論、下着も今日買いに行かないと無い。
普通は、この上に着る物との組み合わせで 体のラインは見えるけど中は見えないという風になるはずなんでしょうけど、今は体のラインもそれ以外も綺麗に出ている。正確には綺麗ではないけど、それはそれとしても人様に見せて歩くようなものでは・・・
「すっ、すいません すぐに着替えます」
取るものも取り合えず、部屋に駆け込んだ。
ベッド脇のドレッサーに写る自分の姿は壮絶なものだった。
化粧も髪型もあったものではない。
“ぷるるるる” 電話が鳴った。
「はい?」
Mr.G:「朝御飯が 10分後ぐらいに来ますので それぐらいに出てこられてはどうですか?」
「あっ、ありがとうございます 急いで着替えますです。 はい!」
鞄に入っていた、100円ショップで買ったプラスチックのブラシで力いっぱい首が曲がるぐらい髪をとかして 一番おとなしそうに見えるスーツを選んで着替えた。
今度はちゃんとブラジャーもして!!
そして、髪を後にまとめて外に出た。
下から、といっても説明不足ですね 唯一の高層ビルには下層にホテルが入っていて、そこから持ってきてもらったのでしょう。白い木のお盆には トースト サラダを初めヨーグルト、フルーツまでついた朝御飯のフルコースだった。
こんな贅沢な・・・・と思ったけど、今日ぐらいちょっと贅沢も!! って ただ食欲に負けただけだけど 朝御飯を食べた。