Miss Lは、ローズバスが大好き 30

小柳刑事:「知っているのか!」
声こそ大きくなかったものの、相手を威圧するような力を持った声だった。
ウーダン:「お〜怖い」
しかし、そんな視線を恐れるわけでもなく、どちらかと言うとおちゃらけて受け流している。その態度に、あまり良い感情を抱かなかったようで小柳刑事の眉が上がった。
「まあ、こんな所にいるぐらいなら苦労しないんですけどね」
すぐに、こちらの言葉に反応して、態度を和らげる小柳刑事。そのたいおうはさすがである。
ウーダン:「でも、実はここにいたりして・・・」
顔を下に向けて顔に影を作った状態で目だけが笑みを浮かべながら話した。
そして、その視線の先 椅子の辺りから黒い細い まるで人形の腕のような手がゆっくり関節を曲げながら伸び上がってきて テーブルの上に一本ずつ指を乗せた。
その手が止まって、ゆっくりウーダンが顔を起こそうとしたときに テーブルの上に置いてあったフォークが大きな音を立てて その小さな黒い手ごとテーブルに突き刺した。
ウーダン:「あ〜〜〜 それ作るのすっごく大変だったんだぞ〜」
「相手が悪かったみたい、それと受けない冗談だったみたいだったわね」
小柳刑事:「あっ、すいません。」
ウーダン:「まったく、冗談も通じない奴には話すことは何も無い」
首を横に向けて、喋るウーダン。
「せっかく来たのに、そんな事は言わないで。それに〜」
私は悪戯っぽく笑って、両手をウーダンの首のところに伸ばして肩越しに絡みつかせた。
そして、襟首のところを優しく撫でて言った。
「次のネタを仕込んでいる辺りが、喋りたくなさそうには見えないわよ!」
肩口から離した手には赤と黄色のスカーフを握っていた。両方のスカーフは紐で繋がれていて その紐には小さな国旗が結び付けられていた。
微妙な引っ張り方をしたので、片側のスカーブから紙ふぶきの塊がボトンと落ちた。
ウーダン:「あ〜あ、仕込むのにはそれなりの苦労をしているのに」
「見破られるようでは、ウーダンの弟子は名乗れないわね」
どうも、アルコールが回っているので 随分ハイになっていて、結構好き勝手な事を言っている。
ウーダン:「で、何を聞きたい?」
改めて、座りなおして ショットグラスにはいつの間にか飲み干したラムを改めて注ぎ直していた。
なみなみと注いだ酒を前に、マッチで火をつけると青白い炎を出して燃え始めた。
まるで、テーブルキャンドルのように明かりをともした。
ウーダン:「最初は、錬金術師みたいなものだった。先人達の繰り返される実験で実証された事が 書物にまとめられていた。すごくつまらない物から まるで嘘のようなものまで。あるものは、どこにでもある紙切れだし あるものは同じ重さの金と交換しなければ手に入らないほど貴重なもの。多くは薬だった、少なくは絵の具や染料の作り方だったり、あるものは料理の調味料だったりと 実用的で夢の無い研究が多かった。そして、これに分類されない半分が、信じられない部分魔法所の類だった。もちろん、その書籍があるからというより、それそのものがマジックのネタになっているのだから役に立たなかったとは言えないが。どの呪文も唱えるだけで何かを起こせるようなものは無かった と後に書き残している。」
顔をテーブルキャンドル越しにうす青く染めながら、まるで誰も見ていないところで一人朗々と続けるように話している。
ウーダン:「そして、魔術との決別を計るために 広く明るいステージにタキシードで立つようになった。そして、人を驚かせるのに成功した。誰も、明るい場所で繰り広げられている魔法などを見た事が無いから当然である。奇跡だと信じて、その奇跡のことをマジックという名前に呼びかえるのに長い時間が必要だったわけではない。ただ、長い間引っかかっていた事がある。本当に魔法は無かったのだろうか? ところで、お嬢さん、本当に魔法は無いと思いますか?」
ようやく言葉が途切れたところで、私の番が回ってきた。勿論、何の回答どころか呼ばれる事すら想像して無かった私は返事をする事を意識する事に 数秒の時間を要した。
「あっても、不思議は無いと思いますよ。どこまでが魔法でどこまでがマジックなのか区別する必要は無いと思いますよ」
現に、テレビで見るマジシャン達は魔法としか思えない事を平気でやっちゃいますから。
ウーダン:「いい答えですね。その答えは、ウーダンの考えた回答と同じ物ですね」
小柳刑事:「良くご存知ですね」
「感です、感 知っていたわけではないです」
ウーダン:「ただ、恐らく解釈は違うでしょう。彼は、マジックも魔法も、何らかの手法で行う不思議には違いない。魔法も手法さえ見つける事ができれば実現できると考えたようです。魔法書の研究は進み、それがそのまま彼のマジックの手法にも幅を広げたので結果的にはそれが彼を有名にしたのかもしれません。そして、後年彼は魔法を会得したと言い「マスター」と呼ばせていたようですし・・・。それが本当の事なのか、それとも神秘性を演出する為の狂言だったかは解らないのですけどね。ただ、その残された数少ない書物の中には おっしゃるような羽根の生えた小鬼の事も書いてあった訳なのですけどね。」
「その話は面白そうですよね」
ウーダン:「期待はしないで下さい。魔法使いと間違われるのは光栄なのですが 詐欺師と呼ばれるのは不本意なのですから」
「もし、詐欺師ならここの小柳刑事が捕まえてくださいますから大丈夫ですよ」