Miss Lは、ローズバスが大好き 3

コートの襟を立てて顔を隠して歩くのは、いい女の印みたいなもの。
何故なら、顔が見えないから・・・・ って、それも夜ならです。
真昼間、その上隠しても隠し切れないぐらいの強風じゃあちっとも綺麗になんか見えやしない。
「何であたしはこんな所にいるのよ!!」
案内してくれた人には悪いけど、大声を出して叫んでしまった。
三日目にはいって、仕事にもなれてきた。
設備のいい職場で、私の席の周りにはコンピューターが置かれていて、その横にはCD、DVD、MD、カセットと置かれている。
電気の明るさも、空調も、窓の開け閉めさえコントロールできる電動住宅。
いい部屋って言うのは、こんなに違うのかと思ったけどどうもそうじゃないときが付いたのは数日後。
恐らく、人間としての恒常性を求めないのであれば一切椅子から立ち上がらないのではないかと思うほど動かない。口を動かすのだけは億劫でないらしくてとにかく口だけは聞いてくれる。
口は聞くけど、本当の仕事は中々来ない。ここに来た時のようにまとめて仕事をすることなんて無い。
時々思い出したように ぽつぽつと喋る。なまじ暇なだけに気を抜いていると突然喋られるとあせってしまう。
不思議なのは聞き損ねていても怒るわけではなく、こちらの様子を伺うかのように何度も言い直してくれる。そんなに手間をかけるぐらいなら自分で打てば良いのにと思うんだけど パソコン音痴なのかしら?
でも、ここの設備を見ているとそんな風には思えないと思っていたんだけどその謎はすぐに解ける。ただの不精物・・・・
三日目までは我慢したけど、元来気の短い性格なんで我慢できない。
片付かない部屋を片付け始めてしまった。
こうしてみると部屋中に本が散らばり、写真やコピーの束が散乱している。
「少しは片付けられたほうが良いんじゃありません?」
長考に入って、中々口を開かないMr.Gにむかって言った。
めんどくさそうにこちらを向いた椅子。おそらく首だけ曲げる事はもう出来ないぐらいの太さの首だからかもしれない。
Mr.G:「それには触らないで!!」
結構強め口調で言われて、少しからだが引いてしまった。
「はい、すいません」
そのまま、席に戻ろうとしたところにMr.Gが声をかけた。
Mr.G:「すいません。おどろかせるつもりはなかったんです。もし宜しければ、外の部屋のほうを片付けていただけますか?」
すまなさそうに言うMr.G、どうも本当に大事な書類だったようだ。
ワンフロア-借り切って住んでいるだけはある。6LDKの部屋で最も広いリビングに机を置いて仕事をしている。
Mr.G:「そんな事より、東京タワーって行ったことありますか?」
そんなことってどんな事? 唐突に言われたのは東京タワー。生まれも育ちも東京だと一度や二度は行ったことがある。遠足だったり 課外授業だったり 聞くほうが間違っている。勿論私も 何度も行ったことがある。
「勿論、上った事もありますよ」
即答で答えた。迷うまでも無い。
Mr.G:「それは頼もしい、じゃあお使いを頼まれてくれるかな?」
「はい!」
退屈に飽き飽きしていたわたしは 喜んで答えた。
何か書類を預けられて、それを持っていけば解るといったことを言われて 子供のように交通費を子供のように渡されて 出かけた。
その時点でおかしい事に気が付くべきなんですけど 出かけられることがうれしくて気が付かない。
久しぶりの東京タワーの受付で手紙を渡すと、特別扱いで業務用リフトで上まで送ってくれる。おのぼりさんが一杯いるエレベーターに乗らずに済んだ。
喜んでいたのもつかの間、業務用のエレベーターは二つの展望台を越えて展望台の上まで私を運んでくれる。
そう、冬の強風吹き続ける屋外に。たった数百メートルしか地上と変わらない高さでも下にいるのと上にいるのでは大きく違う。
したでは、寒い風なのに 上では風の中に小さな雪のような氷のようなものが混じっていて 拭く風がほほを切りつけるように流れる。襟を立てていても耳に吹く風が耳を引きちぎろうとあちこちの方向に吹く。
何よりも、こんな所で出るなら 教えてくれていたらもう少しましな格好してくるのに長いとはいえロングスカート。風を全て遮ってくれているわけではない。
毛糸のパンツをはいてくるんだった・・・あと、おばさん臭い長い袖のシャツも。
案内してくれた人の指差す先は、そこから20mほど屋外の階段を上がった上の会談の踊場だった。
風が強すぎて、相手のいっていることが解らないんだけどどうしても上まで上らないと駄目みたい。
下で見た 珍しいものを見るような目はそのせいだったんだ。
落ちたら労災ぐらい出るのかしら・・・・・