伊藤探偵事務所の混乱 76

冷たくなると、予想通りなのか ただの当てずっぽうなのか大きな象が出てきた。
象と言うよりは、その巨大なサイズは怪獣と言うほうがふさわしい。
やさしい象の姿とは一変変わって、明らかに敵意をむき出しにしたその牙がその性格を物語っている。
やさしいはずの目も、その長い鬣(たてがみ)のような毛で隠されていた。
少しだけ見えていた目は赤く充血していた。
声は象の声と同じだったが、声の大きさと 周りに反響するからか迫力と言うか圧力が違った。
「正解は、これですか? erieriさん」
erieriさん:「正解はこれだけど、出てきたのはあたしのせいじゃないわよ」
arieさん:「じゃあ、次は吸血鬼かしら?」
erieriさん:「吸血鬼が出たら、いい男らしいから貴方に任せるわ」
arieさん:「いい男だったらね」
「あの、大きい象さんは?」
erieriさん:「貴方にあげるわよ、このまま叩き売ったらいいお金になるわよ」
「その前に踏み潰されちゃいます」
erieriさん:「象なんて、目の前に出て怒鳴り飛ばせばおとなしくなるわよ」
「本当ですか、arieさん」
arieさん:「相手が象なら、怒ってなければそうね」
「あれが怒ってないっていうんですか?」
arieさん:「あれは怒ってないわよ、まだ」
ぬりかべさん:「確かに怒っては無いね」
「じゃあ、目の前に出て怒鳴れば本当に止まるんですね!!」
どうも言う事を信じられない二人。念のための確認を。
ぬりかべさん:「二人の言う事を信じるのはいいけど、あれは象じゃないぜ」
「象じゃないんですか?」
ぬりかべさん:「その話はともかく、先に進もう」
「でも、象が・・・」
arieさん:「襲っても来てない物をどうしたいの?」
「へ? 襲ってくるんでしょ?」
arieさん:「残念ながらこの生き物には調教を受け付けるほどの知能は無いわ」
erieriさん:「そう、こちらから手を出さなければ襲ってきたりはしないわよ。いままで二つのトラップとあわせた引っ掛けよ」
「じゃあ、このまま通り過ぎれば?」
ぬりかべさん:「まあ、よっぽど機嫌が悪くなければ襲っては来ないし、あまり目も良くないので見つかりもしないと思うけどね」
恐る恐る、目の前の道を降りてゆく。
みんなの言うとおりに、いくらか落ちる砂粒の音に微妙に反応したが それだけでそのまま通してくれた。
「ほんとに、来ませんでしたね」
arieさん:「普通、野生の動物は肉食獣でもない限りわざわざ関係の無いものを襲ったりはしたりはしないわよ」
「でも、恐竜は・・」
arieさん:「あれは、肉食 これは雑食」
「でも、あんなに大きな体なのに」
arieさん:「あんなに大きな体だから、機敏な動きが出来ないの。私たちみたいな小さな物を追いきれるほど素早くは無いのよ」
erieriさん:「さて、ここで問題です!! 次に出てくるのは・・ってやる?」
「さっきの象はもしかしてマンモスですか?」
erieriさん:「おっしい! ナウマン象よ」
「で、狼男は ネアンデルタール人。恐竜はそのものですね」
arieさん:「少し解ってきたみたいだね」
「なんで、ここでそんなものがいるんですか?」
erieriさん:「組み合わせから、そんな事は気が付くものよ。でも、何故だかはこの先に行って見ないと解らない。でも、いくつかの推論なら立つわ」
arieさん:「そして、宝の正体も」
「宝は何ですか?」
arieさん:「宝が何だかの予想は付いたけど、何があるかまでは解らないわよ」
「erieriさんもですか?」
erieriさん:「いくつかの予想は付くけどね」
arieさん:「とにかく、先に進みましょ 長老が待っているはずだから」
「先に着いてるんですか? 秘密の通路かなんかで」
arieさん:「着いているのか、待っているのかまでは解らないわ・・」
完全に禅問答のようになっている。
arieさんとerieriさんについていっている限りは間違いが無いだろう事も解るし、先に待っているのが長老なのであれば おそらくそこまでたどり着けば安全であろう事も。
だが、答えを求める以上ここから先に進むしかない。
「じゃあ、とにかく行きましょう」
疲れがたまってきて休憩の回数が増えている。とにかく進みだした。