伊藤探偵事務所の混乱 69

二人が交差したのは、 互いが互いで助けるため。
入り口でバイクが衝突するより前に、4人は洞窟の中に飛び込んだ。
飛び込んだという表現で生易しければ、飛ばされたである。
数十キロの速度で走るバイクから、まるで打ち出されるように飛ばされたら人なんてただの肉の塊・・・・
壁までの僅か数秒に、今までの人生を後悔するか 将来を悔やむぐらいの時間しか与えられないはずだった。
いや、考えようによってはそのほうが幸せだったかもしれない。
おいてってくれた秘密兵器のお陰で、体が燃えるのだけは防げたようだ。
そう、飛んでいるのではなく地面を滑っているのだ。
両腕は、手錠で止められているので arieさんを抱きかかえた形で滑ってゆく。
まるで山の上から草原を段ボールを そりの変わりに滑り降りてくるように。
ただ違うのは、そりが僕で 草原でも何でもないごつごつした岩が出ている ただの地面だけだった事である。
双方がぶつかる寸前に飛び出した。
その時にerieriさんのだした糸は。僕たちの体に巻きついており その一反が入り口の岩に掛けられており、僕たちと向こうの二人が双方で引っ張り合いながら、数箇所の岩を破壊しながら速度を落としていったようだ。
アメリカンクラッカーって知っていますが?
直径5cmぐらいのプラスティックの玉を、紐で繋いだだけのものである。
紐の真中を持って、上下に揺らすと両端に付いた玉が 双方から近づいてぶつけて遊ぶおもちゃである。
真中を紐で括られた状態は同じであるが、双方の重さが違うのでタイミングがずれてぶつかったりはしない。まあ、ぶつかれば命は無いだろうからそれで良いのだが・・・
まんなか、そう手で持つ部分はあちこちの岩に掛けられていて、引っかかっている部分の岩が重量に耐え切れず何度も崩れる。
そして、何度も何度もerieriさんは、ワイヤーを用意して引っ掛ける。
崩れてゆく岩の数だけ速度が落ちた。
その度に、体にかかる衝撃は貴重な経験で、arieさんと一緒でなければ 泣きが入っていただろう。
まあ そのお陰で、空を飛ぶ貴重な機会は失ったが  地面を埃を立てながら100K近い速度で進む貴重な経験は出来た。
「あっ、とっ、ぐっ、どっ、うげっ」
とにかくボキャブラリーにある限りの叫び声を疲労して体が止まった。
しばらく、声が出なかった。
声が出る前の間に、arieさんは僕の腕の手錠を解いていた。
ぬりかべさんたちは、どうも 入り口を見に行ったようだ。
「あっ、arieさん ひどいですよ 人をそり代わりにして・・・」
arieさん:「一人で滑って、頭からざくろになるのが望みだったの?」
arieさんは靴を脱ぎ、ヒールの無い靴を見せてくれた。
そういえば、何度も何度もarieさんの足が滑っている間動いていた。
滑る方向をコントロールしていたようだ。
「そ、そんな事よりも所長達が!!」
arieさん:「大丈夫よ、殺したって死なないわよ」
「で、でも所長達の車が・・」
arieさん:「ああ、よく燃えていたわね」
「じゃあ、所長達が・・・」
arieさん:「大丈夫よ、死んでも命がけなんてしない人だから 多分、運転は西下君よ」
死んだらやっぱり命がけだと思うのだが、その事に突っ込む度胸は無かった。
西下さん?、そうか遠隔操作!? じゃあ、所長達はどこかに隠れているんだ・・
arieさん:「怠ける事なら 世界でも右に出る人はいないから 終わるまではみつかりっこないわ」
いかにも馬鹿らしい事を聞いているかのように、言い放った。
恐ろしい事であるが、日常の出来事の一つであるようだ。
erieriさん:「久しぶりだから、壁にぶつかって死んでくれると思っていたのに」
erieriさんが、いつもの口調で歩いてきた。
arieさん:「ぬりかべ君? どうだった?」
影からぬりかべさんも出てきた。
ぬりかべさん:「予定通り、入り口は完全に埋まっています。」
arieさん:「これで、しばらくの時間は稼げたわね」
erieriさん:「あとは、こちらが死んだと判断してくれるかどうかね」
「あれは、わざとなんですか?」
erieriさん:「ばかね〜、あんな事偶然にやったら死んじゃうじゃ無い」
だからといって、わざと出来るようなことでもないと思うが。
arieさん:「燃料が良いから、きっとよく燃えると思うわよ」
嬉しそうなarieさんの笑顔が、返って怖かった。
持っている荷物を確認し、そのまま出発する。
狭い洞窟なので 一列に並んで進む必要があった。
奥に行って何があるのか解らないが、ここまで来たら前に進むしかない。
右足と左足が、交互に動く間は前に進もうと思った。