伊藤探偵事務所の爆発10

エレベーターの数字が、この階以上上が無い。
というより、この階と いくつかの階に止まるだけで ほかの階には止まらない。
このエレベーターがそういう仕様というより この階だけが特別扱いされているのであろう。
どのホテルでも、同じだが最も高いフロアーがもっとも高級な部屋になるようだ。
そして、エレベーターは、途中の階で止まった。
エレベーターの両脇には、腕に白い布をもったボーイが立っている。
「いらっしゃいませ」
深々と下げられた頭は、その教育のよさを物語るかのようだ。
未来さんは、堂々とその間を進む。
前には、年をとったボーイとは言えない様な風格の男が先導している。
細い通路を行く間、人に出会うことは無かった。
奥のほうから、人の声が聞こえてくる。人の声と言うより人の叫び声。
叫び声と言うより、下品な親父の声が。
いわゆる成金で金に飽かした親父どもが来ているのであろう。少しは庶民の苦労を思い知れ・・・
しかし、下品な声・・・
しかし、何か懐かしい声・・・
近づくにつれ、声の輪郭がはっきりしてきた。
とたんに、頭を手で押さえた。
口から、
「あいたた・・・」
声が漏れた。
だんだん足取りが重くなってきた。
“がちゃ”重厚なドアを開ける音。その音が消えたとたん、疑いが確信に変わった。
「所長、何してるんですか? こんなところで」
所長:「見りゃ分かるだろ、仕事だよ仕事!!」
見て分かるぐらいなら聞きはしません。
明らかに、上品を絵に描いたような女性が隣に座っているにもかかわらず、その下品さは目を見張るものだった。
さすがに、女性は凛とした笑顔を崩さないが、おそらくかなり嫌がってるであろう。
「ごほん!、失礼!!」
所長と女性の間に割り込んで、手を上げるといすが運び込まれた。
所長:「何するんだ!」
「まじめな話になりそうなので、お隣に失礼します」
目いっぱい嫌味を言ってみた。
所長:「どうせ、もうしばらく始まらないのに・・・」
「所長、なにかいいました?」
僕は殴られて、大変な思いをしたのに(って、大変な思いは殴られたことだけだったが)
所長:「まあ、始まるのをおとなしく待ちましょう」
人のことなど考えず、笑顔で答えた。
“ばちん”
所長のほっぺたが鳴る。
大きく所長のほっぺたを通過して、90度ぐらい回った未来さんの手が見えた。
未来さん:「もっ、申し訳ありません」
慌てて頭を下げる未来さん。
所長の叫び声より早いほどだった。
よく見ると、所長の右手が未来さんのお尻に伸びていた。
「自業自得です ほっといて良いですよ 未来さん」
所長:「いつの間にこんなきれいな人と知り合いに成ったんだ?」
「所長にも紹介しましょうか? 始めてあった時には頭を殴られた後のような衝撃が走りましたから」
所長:「おれにも今走ったがね」
「僕のは、気絶するほどでしたから・・」

所長自ら僕のグラスにワインを注いでくれた。
所長:「かんぱーい」
こちらがグラスを出すまもなく飲み始めた。
語句は改めて、未来さんとグラスを合わせて乾杯を行った。
先ほどの女性がいた席に、未来さんが座ったので隣になった。
所長:「そんな風にしてにやけていると、完全に親父だな・・」
「いえいえ、どなたか程ではありません」
20台後半で中年には成りたくない。
そういえば所長と二人で、ってことは初めてだ。
「所長、こちらの方は・・」
所長:「知ってるよ、通り名だったら 未来さんだね」
「所長、何で知ってるんですか?」
所長:「美人だから・・・・って、他に理由は無いでしょう」
ともあれ、所長が知っているぐらいだから、そっちの世界の人なのかもしれない。
ただ、美味しそうにワインを飲んでいる姿からは想像つかなかった。