伊藤探偵事務所の爆発23

未来さんに聞いてみたかった。
どこまでが、本当でテストだったのか。
今回の依頼の成否以外は、未来さんの口から聞かれることはなかった。
そのまま、黙って自分の部屋に引っ込んでしまったからだ。
依頼内容と、shengさんがいると言う事から依頼主は僕にでも容易に想像が付いた。
何時もながら、いけ好かない組織である。
こんなところに日本の国民を守るためと言われてもとてもじゃないが任せられない。
人の事などなんとも思ってないようだ。
僕が、そのままソファーに寝ている間に本当の依頼主が来たようだ。
arieさん:「で、あたしたちに何をさせたいの」
依頼主:「話を聞いてくれなかったのかね? 彼に代役を頼みたい」
arieさんの嫌いなタイプである。見下すようなしゃべり方にarieさんが反発しないはずはない。
arieさん:「へ〜っ、人に物を頼む態度とは思えなかったんで頼まれていたとは伺えませんでしたわ」
見えなくても表情に想像が付いた。きっと表情を殺して微笑んでいるのであろう。
依頼主:「何を言っているんだ、この女は」
依頼主のほうも、予想通りの反応である。
shengさん:「所長、冷静に!」
shengさんは、arieさんの事を良く知っている。どういう反応に出るか予想が付いたのであろう。
arieさん:「私ども探偵事務所の依頼は、私が窓口になって受けることになっております。お気に召さないのでしたらこのまま帰らせていただきますわよ」
依頼主:「いや、それは困る。ぜひ引き受けて欲しい」
arieさん:「そちらにも同じような背格好の若いのぐらいいるでしょう!」
shengさん:「既に、何人も手配しています。今も、ほかのホテルで部屋に閉じこもっています。」
arieさん:「なぜ、私どものところに」
arieさんはかなり怒っているようだ、shengさんにも丁寧な言葉遣い。
shengさん:「彼らがどうやってさらったかが、いまだにわからないのです。替え玉は人に知られないように隠しています」
arieさん:「で、何でうちの子なの?」
shengさん:「よく存じ上げておりますから。 おそらく死なないことも」
この間の話を、聞いたらしい。
だが、その力が訳のわからない呪いのような力に対して働くかどうかまでは自信がないが・・・
shengさん:「公の行事があり、これ以上居場所を隠しておくことが出来ないのです。ですから お願いします。引き受けてください」
依頼主:「報酬は出来る限り用意する。だから頼む」
arieさん:「へ〜、高く買われたものね。私の目には、ただの二日酔の酔っ払いに見えるんだけどね」
返事をしなかった。
きっと、返事をしてもやぶへびだろうし、今は頭痛と怒りでそれ所ではなかった。
それに、arieさんが引き受けるとは思えなかった。
arieさん:「それじゃあ、契約に移りましょう」
えっ、引き受けるのだろうか?! 耳を疑った。
依頼主:「おお、引き受けてくれるのかね」
arieさん:「だれが引き受けるといったの! まず、ここまでの代金を貰わないとね」
依頼主:「何のことだ」
arieさん:「事務所の社員を勝手にテストして、何もなかったで済むと思ってるんじゃないでしょうね」

依頼主:「いや、それは 仕事のためのやむ終えない処置として」
arieさん:「じゃあ、日本の法律では人を殴り倒して さらっても やむ終えない処置なら良い様になっているのね」
依頼主:「我々は、超法規的部隊だ。日本の国民を守るための苦汁の決断だったんだ」
arieさん:「あたしたちも日本の国民ということに成ってるんだけどね」
依頼主:「多くの国民の利益を守るために必要な処置だった」
arieさん:「底が見えたわね、この話はなかったことにして。今回の件は勝手にお金を引き出すから良いわ」
依頼主:「なに!」
依頼主の怒鳴り声が聞こえる。
arieさん:「大きな声を出すんじゃないわよ。こっちは頭にきてるのよ 事務所を爆破し 人をさらって 気持ちよく仕事をしろって? する訳ないでしょ。それも頼み込むならともかく命令口調で、ばかばかしくてあくびも出ないわ。顔洗って出直しといで」
そのまま、怒って部屋を出て行ってしまった。
大きなドアの音を立てて。
だが、歯車の回りだした音を感じた。
arieさんが一人で来たこと、僕をこの部屋に残していったこと から考えてもこの依頼 最終的には引き受けるつもりのようだ。
部屋の中では、僕がいるのに気づいてないのか男の怒鳴り声が響いていた。