Miss Lは、ローズバスが大好き 21

話は少し前にさかのぼる。
意外にこの事件は根が深い。
目的の希薄な犯罪というものは、ターゲットを絞りにくい。
最もたちの悪い犯罪は愉快犯であり、目的も何も無い。故に犯罪を起こしたものを絞りきれない事が往々にしてある。
単なる思いつきでも何でも良いが出てこないことにはこれ以上先に進まない。
MissLは優秀なようで、非常に嬉しいのであるが私の結論が出ないことには先に進まない。
部屋中の空気の動きが感じられるほどの状況になると 人がいることですら煩わしい。
あまりにも明け透け過ぎるこの犯罪。実際には大きな問題を起こしていない。
確かに殺人事件である以上大きな問題が起きていないと言えば嘘になるが、殺人を起こしてまで利益を上げる人間がいないような状況。
殺された人たちはいずれもサラリーマン。寂しいところを歩いていただけで各人の仕事にも、住んでいるところにも何の接点も無かった。最初に死んだのが外国人だったのでなにか相関関係を疑ったのだが、それ以降に何のつながりも無い。偽装殺人や殺人の依頼を受けて行われる職業殺人、どれもあまりにも縁の無さそうな人ばかりである。
そういう意味では明らかな愉快犯だとは思うのですが、それにしてはあまりにも手が込みすぎている。本当か嘘か目撃者の証言では童話や物語に出てくる化け物だという事。ある目撃者の発言はハリーポッターに出てくる要請だという始末。勿論疑うつもりも無い。
実際に目撃者の証言は話半分。UFOを見たというのと同じで実際の形を正確に覚えているわけではない。
しかし、幾つかの共通点があるとやはりある程度の形の特定はできる。
空を飛んでいたとか、小さな黒い塊であった等。
共通の認識であると思うが、牙のある動物は基本的に空を飛ばない。
勿論、蝙蝠には牙があるし、ムササビにも牙はある。
しかし、死傷の原因が出血多量で、その裂傷が首に集中している。どんなに頑張っても蝙蝠の牙で僅かな時間で人を殺せるほどの裂傷を負わせられるとは思えない。
ましてや、相手はともかく襲われたほうもじっとしているわけではない。そこまで小さな小動物であれば振り落としてしまうであろう。
勿論、鷹のような猛禽類の爪は 牙とよく似たものではあるが傷の出方が違いすぎる。こうじゃない・・・・
目撃者の証言でも、噛み付いたことになっている。
そして何よりも不思議なのは、噛み付かれているにも関わらず噛み付いた生物の痕跡が残っていない。どんな分析をしても その生物と思われる残存物が無い。
地球上の生物で、牙で噛み付いた瞬間に唾液をつけずにいる生物なんてこのサイズでは考えられない。
じゃあ、異次元やお話の世界から魔法で出てきた生物か?
正直、その可能性が最も高い物だとしか思えない。
一応、昔からの読み物や最近の映画、書籍、コミックス ひとしきり集めてみてそう言った形状の魔物を集めてみたら、特にコミックス系では最近の流行なのか悪に所属しているような魔物に人気があるようでそれこそ星の数ほどのターゲットが出てくる。
ため息の一つも出よう。
ただ、やはり魔法所の類から考えても、登場の為の要素はかなり難しく 魔法使いの杖を振り回すだけで突然出てくる魔物なんて フィクションの世界からしか生まれない。
錬金術から生まれた生物には、“賢者の石“という正体不明のエネルギーの必要性を解き、魔法書は、その契約に多くの代償を要求し 人殺しをさせる為の代償はあまりにも割に合わない要求が多く 中世においてもこれだけの研究がなされているにも関わらず実践例が少ないのは 本当に実行できたとしても、そうそうできる事ではなかったろう。
やはり、結論としては馬鹿なことは考えない ここからスタートしてロボットかキメラ(改造生物)のようなものではないかと。
生物であれば自由に操る方が難しく 実現が困難すぎるし、ロボットの場合空を音も立てずに飛んで人の首に噛み付いてその後飛んで帰ってくるなんて考えられない。今のロボットは歩くのがやっと。空を飛ぶ事は出来ても抵抗する人を押さえつけられるロボットなどは超重量級となりヘリコプターのような羽根が必要となる。
で、あれば最も簡単な解決策は、目撃者をわざと作る事が最も簡単で 何らかの映像を見せる事、または催眠術や幻覚で目撃者を作る方法が最も簡単なのだろう。
東京タワーに確証があったわけではない。東京にいて愉快犯を行うのであれば最終的にはテレビ塔からの何かのアクションを起こすかもしれない程度の安易な考えだった。
もちろん、この部屋から人の気配を消したかったというのが最も大事な用件だったが。
すこし、上の空だった話しに割り込んだ。
Mr.G:「そんな事より、東京タワーって行ったことありますか?」
彼女は意外そうな顔をしたが、すぐに話に乗ってきた。
勿論、言った事があると私に告げてくれた。
やはり怪しいのはテレビ塔部分。馬鹿らしいと思いながら小柳刑事に作ってもらった「捜査協力依頼書」を持っていってもらって とりあえず写真の一枚も撮ってきてもらおうという簡単な気持ちであった。
それが、急展開に繋がったのは考えが甘かっただけかもしれない。
もちろん、Miss.Lへの期待感もあったのだが。
彼女一人ではなく、捜査員も後ろから付いていってもらったのは言うまでも無い。展望台から上に上る時点で止めてしまうと思ったのだが 彼女の性格を甘く見ていたようだった。
実際には、立ち回りまで演じさせてしまった。