伊藤探偵事務所の混乱 17

“がらんがらんがらん”
西下さん:「なるほど、あれだと手は出してこないでしょうね」
arieさん:「あたしには恥ずかしくって出来ないわ」
車を見送る西下さんとarieさん。
所長:「良い朝ですね こっちも、準備しますか?」
arieさん:「了解! 西下君はerieriさんの行方を追って。きっと、悪巧みを始めるから。」
西下さん:「もう、発信機を外されましたから。なかなか手ごわいですよ」
arieさん:「でも、出来ないことは無いでしょ」
 
KAWAさん:「あっやだー、そうそう 私の時もスピーチの長い人がいて・・・」
いつの間にか、同じツアーの人達と打ち解けていた。
話を聞けば聞くほど、体から力が抜けていく。
訳のわからないまま、連れ出されて 新婚の設定なのは判るが事前に何の打ち合わせも無い為 何が起きたか理解が付いていかない。
何がって、空港で車を降りて気がついたんだが車の後ろには 空き缶が引きずられていた。
成田空港なので、高速道路も引きずってきたのかと思うと 途端に力が抜けた。
空港では、団体待ち受けカウンターで大手旅行会社のツアー旅行の列に並んだ。
添乗員:「“熱々、中国2週間の旅”にご参加の方はこちらですよ〜」
KAWAさんが窓口で受付をする。
勿論、こんな格好をしているのは僕たちだけだった。
他の人達は、みんな 思い思いの革ジャンにジーンズのような格好で参加していた。
勿論、ツアーの中ではいきなり最も目立つ存在になってしまった。
添乗員:「では、皆さんパスポートとお金は持ってますか?」
そうだ、パスポートが無い。
「KAWAさん、パスポートが無いんですけど」
KAWAさん:「もう、しょうがないわね 無くすかもしれないって昨日預かったでしょ。何にも出来ないさんなんだから」
ツアーの人達の爆笑を買った。
見たことも無い僕のパスポートがKAWAさんの手には握られていた。
「KAWAさんそれっ・・・」
KAWAさん:「もー、甘えたさんなんだから」
KAWAさんにぎゅっと抱きしめられた。
「はい」
また、爆笑を買った。
きっと、秘密って事だろう。もしかして、もういっぺん何か言ったら同じ事をしてくれるかな?
観光ツアーでもあるし、新婚旅行ツアーである。
結婚式の疲れを引きずった人、明らかに、奥さんの心配ばかりしている 出来ちゃった婚の人 ルーズでだらだらしたツアーの為に 待合時間は驚くほど長い。
良く聞いてみれば、4時間後の飛行機に乗るための集合だった。
KAWAさんは、いつの間にか結婚したての新婚の気分を 他の新婦の方々と共有しているし。僕は、いきなり朝早くから起こされたから疲れていたので 結婚式疲れの新郎さん方と味わった。
寝物語に聞く分には、どうも 僕は東京のサラリーマンで、KAWAさんは福島の人で七夕祭りで知り合って3ヶ月で結婚を決めたそうだ。
一緒に、スキーに行ったり冬の間を楽しんで 春は僕の仕事が忙しくなるので早めの今に結婚式をしたらしい。
家は、家賃が15万円の賃貸で、二人の給料でやっていけるかどうかが心配で 電化製品は奥さんの親が全部揃えてくれた。
僕は、結婚の為に 命の次に大事な車を売ってまで結婚を決心した いい旦那のようであった。
もちろん、そのお金で 今回の新婚旅行も豪華になったそうである。
話を聞いていると、僕って良い人って思えてきた。
そのまま、眠気に誘われて眠りの世界に落ちた。
KAWAさん:「あなた、起きて」
KAWAさんが耳元で僕を起こしてくれる。
「もう少し寝かしてください」
寝不足のところせっかく寝付いたのに・・・
KAWAさん:「もー!! はいっ、ちゅっ!」
ほっぺにキスをされて、驚いて目を覚ました。
「あっ、ごめんなさい」
KAWAさん:「ほらほら、急がないと飛行機が出ちゃいますよ」
目を覚ますと、僕には好奇の目が集中していた。
僕の顔は真っ赤になった。
一緒にKAWAさんも真っ赤な顔をして、駆け込むように飛行機に乗り込んだ。
チケットはビジネスシートだった。
椅子に座ったKAWAさんは、堪えきれずに笑い出した。
KAWAさん:「楽しいね!!」
小声でいうKAWAさん。