伊藤探偵事務所の爆発2

その時、我が目を疑った。
その圧力で耳は馬鹿になっていたから、頼りになるのは目だけだったが 崩れ落ちる音が聞こえるようだった。
目の前に、まるで炎があるかのような 熱い風も体の冷や汗を一気に乾かしてくれた。
既に、事務所の前には数人の野次馬がいた。
「あっ、所長!!」
 
たまたま、買い物から帰ってきたら 赤い火の玉の中に事務所があった。
その時は、解らなかったが 赤い火の玉の中に元事務所があったが正しいのであろう。
コンクリートの柱に、レンガが埋め込まれたすこし味のある建物の柱は残っていたが、レンガの壁は跡形もなかった。
ただ、その緋色が炎の色と変わらないので壁があるようにみえた、と、つまらないことはどうでもいい。事務所が燃えていや爆発しているのだ。
野次馬の一番前、この建物の持ち主である所長が楽しそうに鑑賞している。
「所長、何で爆発しているんですか?」
arieさん:「なんで爆発しているか解る位なら止めているわよ」
西下さん:「爆発? これは燃焼。ある一定以上の速度に達した燃焼しか爆発とは言わないの、これぐらいなら車のエアバッグぐらいだからまだまだ燃焼」
所長:「夏向きの遊びじゃないね、シャワー浴びないと飲みにもいけない」
いちいちもっともだけど、質問の答えにはなっていない。勿論、所長の答えを除いてだが。
いままでの、事件に比べれば大したことの無い事である事は確かなので、生死に関わることを心配しなかったのは、悪い方向に染まってきた。
だが、爆発しても他人に迷惑の掛からない場所にある事務所。
それ故に、防犯設備は豪華装備。恐らく、破れる物はいないのではないかと思わせる程である。
ましてや、アメリカ大統領のくしゃみの回数ですら知っているほどの情報収集の達人たちが座して 待っていたとは考えにくい。
だんだん、胡散臭くなってきた。
「で、この後どうするんですか?」
arieさん:「夜更かしはお肌に良くないから寝る」
西下さん:「仕事が残っているから、仕事する」
所長:「シャワーを浴びたら飲みに行く」
この人達に、まともな回答を求めた僕が馬鹿だった。
「はぁ〜」
回答を聞いてため息が出た。
「とりあえず、仕事どころじゃ無さそうだから帰りますよ」
所長:「事務所を失った傷心の所長を飲みに連れて行ってくれるんじゃないの?」
「お一人でどうぞ、傷心してなさそうですから」
何度か付き合ったが、そのまま翌日の仕事に入るので体力に自信の無いときには付き合えない。事務所がなくなったのでその制限すら無く飲んでいそうなのでとてもじゃないが付き合えない。
所長:「日本の人達は、家屋敷を持たないものには冷たいので、きっと一人で行ったら飲ませてくれない」
悲しそうに言う。
それはただ単に、借金が多すぎて飲み屋がいれてくれないだけじゃないだろうか?
arieさん:「お付き合いしたほうがいいんじゃない? まだ、お客さんがお帰りに成ってないから」
「あっ、そういえば ぬりかべさんは?」
所長:「お客さんのお相手中」
「お客さん?」
言葉の回答は無かった、うやむやのまま結局のみに連れて行かれてしまった。
そして、珍しく全員で。
ラウンジのようなところ、arieさんはソファーで優雅に足を組んで読書。西下さんは、ソファーとガラステーブルでは仕事をし難そうにノートパソコンを叩いている。
所長は、鼻の下を全開に伸ばして 飲んでいる。
少なくとも、ここでだけは所長が最も一般人らしい振る舞いをしている。
僕は、おいしいはずの料理もお酒も、何を聞いてもはぐらかされて教えてくれないみんなに イライラしながら味もわからず飲んでいる。
恐らく、僕が買い物に出たのも計画の内だったのだろう。
ぬりかべさんが合流しても、二言三言喋っただけで、結果は変わらなかった。
所長にしては早いのだろうが、2時過ぎには解散して家に帰った。
珍しく、みんな優しく タクシーで家まで送ってくれた。
家に着いたタクシーで、みんな降りて 家まで着いてくる。
で、家に入ると既に家具は動かされており。家の中には多くの仕切りが作られ 自分の家ではなくなっていた。
「どうなってるんですか!!」
力いっぱい叫んでみたが、それ以上に大きい声に遮られて誰の耳にも届かなかった。
arieさん:「入ってきたら 殺すわよ!」
一番大きな区画を取った、彼女の部屋の中 正確には僕の部屋の中の彼女の部屋に消えていった。
そして、シャワーの流れる音 風呂場は彼女のいる区画の中にあった。
所長:「さっ、風呂行こう!」
所長に肩をたたかれた。
既に反抗する元気を失っていた僕は、一緒に表に出かけた。