Miss Lは、ローズバスが大好き 5

たどり着いたのは事務所。流石に一言言わなければ納得いかない。
一応合鍵も貰っているので 自動ドアの開くのも待ちきれず手でこじ開けるようにドアを開いた。
速いエレベーターがこれ以上頭に血が上るのを防いでくれた。
オートロックだから安心なのか入り口のドアはいつも鍵がかかっていない。
ドアが壊れない程度に、全力でドアを跳ね開けてその階中に響くほどの音を立ててドアを蹴った。
こういう時には、この階借りきりのメリットが出た。
「なによ、あれは!!」
いつもの様にソファーに埋まっているらしくて姿が見えない。
Mr.G:「はい?」
「東京タワーに上るは、常識では展望台まで。その上は上がるって言わないの。それより、あの生物は何? 悪魔、それとも妖怪? なんで、私があんなものに襲われなきゃならないのよ 見てよ!服はぼろぼろ ずっと大事に15年も着たコートだったのに!! 髪形見てよ こんなにくちゃくちゃ!いくらあたしだって毎日ブラシぐらいかけるの。いくらなんでも ここまで無茶苦茶な髪形はしない。だいたい役に立たない案内役が腰を抜かして頼りにならない。帰りのタクシー代だってかかったのよ それぐらいは払ってよ!! そう、あの化け物の口の中に手が入って気持ち悪いったらありゃしない あ〜すぐに手を洗いたい!! 何が簡単な仕事よ! 危険手当の一つも出ないとやってられ ごほっごほっ。」
寒いところからいきなり入ってきて、一気にまくし立てたら喉がかれて声が続かなくなった。
Mr.G:「勿論、危険手当も タクシー代も払いますから落ち着いてください。コートも用意します カシミアなんてどうですか?」
「??カシミアのコート?? 何を言ってるのよ!」
Mr.G:「それより、腕についた怪物の組織を採取させてくれませんか ちょっとで良いから」
珍しくというより、立ち上がったのを始めてみた。
「立てるんですね!」
嫌味たっぷりにいってみた。
Mr.G:「自分でも立てるとは思ってなかった」
本気なのか、冗談なのか 予想外の回答が帰ってきた。
そして、私の破れたコートを大事そうに抱えて大きな袋に入れた。
Mr.G:「ありがとうございます」
また、そくさくとソファーに帰っていった。
あまりにも、意外な反応に 完全に怒りの矛先を反らされてしまった。
「あのね〜、そんなことを言ってるんじゃないわよ どうなってるか聞きたいって言ってるの」
Mr.G:「それより、風呂に入って先に温まってください。体が冷え切っているようです。どうぞ、一番近くの客室を専用の部屋として使ってください。ずっと使ってくれて結構ですよ お話はそのあと聞かせてください。」
こちらの話が一言目を言い始めた時に かぶせるように話した。
実際からだの冷えているのは確かで、言われた途端に体の中が氷の柱で出来ているかのような感覚に囚われた。
ブルっと体が震えた。
「は〜っ」
何を言っても無駄なようだし、言うように体が冷え切っていて耐えられそうに無いので言われるまま客室のバスルームに向かった。
部屋毎に、トイレとバスの用意された ビジネスホテルのような客室だった。少しだけ違ったのは 体をゆっくり伸ばせる大きなバスタブがあることだった。
滝のように大量のお湯の一気に出てくるバスタブは、あっという間に浴室を暖かい湯気で満たした。
良く見ると、中のシャツにまで歯型がついていた。怪物の口の中に入った服は着たくないので 床に投げ飛ばした。
そして、そのままバスタブに飛び込んだ。
体感的には氷のように感じられるバスタブのお湯が、じわじわと痺れるように体に染み込んでゆく。
その後、あちこちから刺されるような、痛みが発生した。
「あいたたた」
しもやけになった、手をお湯に浸したような感覚である。
ぴりぴりと、痛いような痒いような感覚に耐えている間に 徐々に体が中まで暖まってきた。
「ふ〜っ」
体の力が、口の中から抜け出してゆくような感覚に囚われた。
体の力が抜けて ゆっくりバスタブに浸る感覚に完全に力が抜けた。
「あれはなんだったんだろう?」
噛まれたかもしれない腕をさすりながら、思い返した。明らかに人でも動物でもない。
やはり、想像上の生物をイメージするのが近いかと思われた。
背中に羽根があって、手足を人のように自由に動かして 動き回る生物は、進歩の過程では考えられないタイプの行くもののように思われた。