Miss Lは、ローズバスが大好き 34

「うっめ もっも さっくら〜♪」
なんとなく足取りが軽い。あの、小柳刑事の困惑する顔が目に浮かぶ。
有能すぎる部下も考え物ね、あたしのところに来る事件を全部処理しちゃうものだから ちっとも机から離れられない。
あたしが何時 部下の手柄を取ったりしたことがあるのよ!!いっつものけ者にして!!
まあ、良いわ。こうして久しぶりに出番が会ったことだし。
長身の女性?
背は高く170cmを裕に超える。しかし、靴はかかとの高くない黒い革靴。それも、前で紐を結ぶオーソドックスなもの。
そして細身の男性かと思わせるのは、そのピシッと決まったスーツ姿。おそらく三つボタンの上着のボタンの上側の開口部が不自然に胸に押し広げられていなければ迷わず男性であることを疑わないであろう。
それと、今だけであろうがスキップを踏むような軽い足取り、実際には肩から何の変哲も無い黒いソフトなアタッシュケースをかけているだけではあるが まるでハンドバックを腕に下げているかのように90度に広げられた腕が女性らしさを匂わせているだけだった。
「え、えへん」
マンションの見える所まで来たところで、突然立ち止まり 咳払いをして顔と姿を正した。
少し色のついためがねをかけて 眉毛の形を精神力で整えた。
エストのベルトの辺りに、手を乗せてカッコをつけたいところだけど ウエストが細いので型崩れしてしまうのでカッコは悪いがポケットに手を入れて形を作った。
肩から入るように歩いて、マンションの前まで来た。
グーを握った手で、叩きつけるように部屋の番号のボタンを押した。
 
どうも納得いかないというより頭の中でその女性上司のイメージが出来ない。
“ぴんぽ〜ん”
「は〜ぃ」
玄関のベルが鳴ると、何故か返事をしてしまう。
インターホンの受話器を取って、
「どちらさまですか?」
「いるんでしょ、下手に隠し立てせずに出ておいで」
小柳刑事:「はいっ!!」
いきなり怒鳴りつけてくる女性の声、私が答える前に小柳刑事が座っていたソファーから瞬間的に立ち上がり、気をつけの姿勢で返事をした。
送話口を手で押さえながら聞いた
「この方ですか?」
小柳刑事は返事をせずに、硬直した気をつけの姿勢のまま首を上下に大きく振った。
その振り方も、肩から上だけが大きく動くちょっと変わった振り方だった。
「はい、いま鍵を開けますので」
女刑事:「小柳〜 迎えに来い!!」
インターホンの向こうで叫んでいる。
こちらの受話器越しにかなりはなれたところで聞いていた小柳刑事に聞こえるぐらいだから一階のロビーではさぞ煩かった事だろう。
返事もせずに、小柳刑事は走っていった。
「今降りられましたので・・・」
全部言い終わる前に、ぶつっとインターホンは切れていた。
しばらく、持っている受話器の置き場に困った。
もちろん、持っていても仕方が無いので壁にかけた。
玄関のドアを何度かガチャガチャと慣れないのでうまく開けれずに焦っている音が聞こえる。そして、ばたばたと廊下を走っていく音が響いてきた。
飲み物は、冷たいもののほうがいいかしら??
紅茶は、他の飲み物に比べて絶対的に匂いを楽しむという部分では劣るのではと常々思っていた。勿論、口の中に広がる香りであれば葉の種類や産地によって千変万化な香りを楽しませてくれるのですが、部屋全体に広がるほどの香りが無い事は私にとっては不満点である。私だけの思い込みかもしれないですけど。
ちょっとした、焼き菓子なんかを付けるとその匂いが勝ってしまうような気がする。
今日は、ちょっとしたいたずらをしてお酒を合わせてみようかと思った。
普通ならブランデーを合わせるところではあるが、ここはいたずらついでにラム酒を合わせてみよう。
勿論、そのまま入れるのではなく香りを楽しむために、ティースプーンの上でフランベしてから。苦味の強いダージリンなら負けずに楽しめるでしょう。
少量の砂糖に、ラム酒を少々、火をつけると青白い炎が上がって 部屋を暗くするとさぞ綺麗に見えるだろう。
軽く暖められた砂糖は、溶けかけの表面を飴状にし味の変わらない程度に少量を各カップに振り分けた。
部屋中にラム酒の香りが漂った。
Mr.G:「そろそろお見えになるんですね」
眠っていたのが、香りで目を覚ましたのか声をかけながら椅子をくるりと回した。
Mr.G:「お茶だけで帰ってくれますかね?」
匂いをかぎながら、Mr.Gはつぶやくように言った。Mr.Gも彼女の事を良くご存知なんでしょう。
「ちゃんと、おもてなしは考えてありますから大丈夫ですよ」