Miss Lは、ローズバスが大好き 29

小柳刑事:「すいません、こういったところは成れてなくて」
よく考えたら、こんな所で詳しいところを見せるから縁遠いんじゃない。っとひとしきり反省しながらも、久しぶりのアルコールの味に酔っていた。
「いいえ、こんな所に詳しいほうがどうかしていますよね」
舞台では、相変わらず女性が扇情的な姿で踊っている。踊りが激しくなるのと合わせて炎が上がる感覚が縮まってくる。
薄い布をまとって踊るダンサーの動きが、後で燃え上がる炎に透過されて 体のラインが影になって映し出される。真っ赤な明かりはそれだけで独特の雰囲気をかもし出す。
服の色が既に何色なのかは解らないが、時折シルエットに写る服は当たり前だけど真っ赤な燃えるような色をしている。
体を弓なりにそらしてブリッジするように手を床につけて反り返っている。そしてその伸ばした背中をゆっくり真っ直ぐにしながら徐々に体を伸ばしていくとその影は地面から途切れず よく見たらその手には長い剣が握られていた。
天を突くかのごとく振り上げられた剣に、小柳刑事が立ち上がった。
「小柳刑事?」
小柳刑事:「すいません、職業病でしょう」
頭を掻きながら座りなおした。
まるで、中国の拳法を見ているかのような券捌き、空を切り裂く剣が主人なのか 人が主人なのか どちらがどちらを支えているのか解らないかのように剣を指軸に両足を遠心力に任せて飛び回る。
長剣の技である。伝統的な中国拳法である。
空を二〜三度八の字に切り裂いた後、長い剣をそのまま地面に突き刺した。
その瞬間に一層炎が大きく燃え上がり、踊子が炎の渦に飲み込まれ みんなが固唾を飲んで見守る中 静まった炎の中には一人のタキシードを着た紳士が立っていた。
もっとも、決して褒められた体型ではなく ころころと丸いタイプの男だった。
ステージの男:「Welcom to ウーダン!!」
短い両手を目一杯広げて、観客に叫んだ。
そして深々と頭を下げて、ステージから降りてきた。
ショーは終わったようだった。
ステージから降りてきた男は真っ直ぐ私たちのテーブルまでやってきた。
椅子にした樽と同じような体型なので後から見たら瓢箪のように見えただろう。
ステージの男:「お楽しみ下さっていますか?」
「ええ、美味しいお酒を頂いていますわ Mr.ウーダン」
ステージの男:「良くお分かりで」
「この雰囲気の中、タキシードで現れるのは ロベール・ウーダンぐらいでしょ」
ステージの男:「お若いのに良くご存知で、我が尊敬すべき師の事を」
何のことだか解らないようで、小柳刑事は表情にすら困っていた。
「小柳刑・・っ 小柳さん、ロベール・ウーダンは近代マジックの父と言われている人ですよ。それまでのマジックは、魔術と呼ばれていておどろおどろしい墓場のようなところを舞台にされてたんですけど、初めてタキシードを着て普通のステージでマジックを したのが ロベール・ウーダンと言われているのです。」
ウーダン:「全く持ってそのとおり」
手を丸めて両手をすり合わせると、小さな爆発が起きてなかから花が出てきた。花には一枚のカードが刺さっていて、そこには事務所で見た名刺があった。
ウーダン:「私がオーナーの、ウーダンと呼んで下さい。 Miss.L そしてそちらは?」
「えーっと、小柳さんです。Mr.Gから聞いていただいています?」
ウーダン:「はい、最上級のおもてなしをするようにと。もっとも、この店にしては良いおもてなしをさせて頂いているようですね」
小柳刑事:「どこがですか?」
「あら、いいお酒を出して下さっていますわ。」
ウーダン:「その通り。わが店でも最高級のお酒を出させて頂いています。お嬢様は良くお分かりで」
「お嬢様ってお年じゃないけどね」
ウーダン:「ご謙遜を、どうですか?この店の雰囲気は」
「ウーダンって名前だから、もっとさっぱりしたお店を想像したのですけど でも、こういった雰囲気も大好きですけど」
ウーダン:「お気に召して頂いてよかった。しかし、ウーダンは後のタキシードを着たイメージのみが有名ですが、それより前の姿も有るのですよ。もちろん、最も有名なのは科学者としての姿なんですけどね」
「それは存じ上げませんでしたわ、科学的な根拠に基づいたマジックが多いということは知っていましたけど」
ウーダン:「科学と言うよりも、錬金術師の末裔と言うのが正しいのかもしれませんね。色んな逸話が残されています。もっとも、熱中したのは呪術を科学で実証しようとして ああいったスタイルを取ったって事ですがね」
「面白い話ですね、何か聞かせてもらえますか?」
自らも、いつの間にか用意したショットグラスにラム酒を注ぎながら、悪戯っぽい目でこちらを眺めながら話を始めた。
ウーダン:「勿論、本当に見たものはいないって話なんですけどね、ウーダンの消失マジックには助手がいたって。それも、人のぜったい入れないような小さな箱に入り物を出したり。時には空から何かを吊るしたりと、人の力では叶えられないようなマジックを行ったとか。そう、羽根の生えた黒い小鬼の力を借りて・・・・」