伊藤探偵事務所の憂鬱 22

かなりアルコールが入ってきて 顔が赤くなるのは感じたが 周りの視線が怖くてなかなか酔わない。
ふすまが開いて親分が若頭と一緒に入ってきた。
「お気遣い 染み入りました 有難うございます」
親分自ら土下座をして挨拶された。
四隅に陣取っていた子分が親分の後ろに下がって 同じように土下座をした。
僕にはどういうことかは解らなかった。
「KAWAさん どうしよう?」
小声で助けを求めた
「親分と副所長でいっそに お酒を飲みましょーって」
出来上がってるKAWAさんは 土下座している親分のそばに行って手を掴んでふらふらしながら傍までつれて来た。
「失礼ながら、どうぞ」
KAWAさんが 連れてきてしまったので KAWAさんの言う通りにお酒を出そうとしたのですが ・・・器が無かった。
しょうがないので 自分の飲んでいたお猪口の口を拭いて 差し出した。
「有難うございます 心してお受けいたします」
時代がかった口調で親分が うやうやしく杯を出した。
もちろん、お酒をついだ
「この杯、確かに頂きます」
親分は杯を 懐に入れて頭を下げた。

「酒をもってこい」
若頭が声をかけたのを待っていたかのように奥から酒が何本も届けられた。
「先生、いや今日からはおじきと呼ばせてください」
若頭が新しい杯と酒をもって注ぎに来た。
なんで、おじきなんだ。
「姉さんにも、どうぞ」
KAWAさんにも注いでる。どう見てもそろそろ危なくなってきている。出来たらもう注がないでくれ。
先ほどまで、部屋の四隅で座っていた子分達まで 酒を持って集まってきた。
「親分の 兄弟分と言うことは われわれにとっても親分と同格、何かありましたら遠慮なく申し付けください。」
どうしてそういうことになるんだ。
次から次へと子分達が集まってきて、どんどん注いでゆく。
チンピラやくざまでもが列をなしてくる。
断れる顔じゃない人たちの集まりで 顔の傷をジッパーみたいに空けたらどうなるんだろうなんて、考えながら・・・・いかん 酔ってきた 頭が廻っていない・・・

部屋中を揺るがす大宴会になって もう既に何杯飲んだか解らなくなってきた。
みんなが騒いでいる中、倒れて横になってしまった。
しばらく、目が覚めていたり気が遠くなったりが波のように続いていた。
やわらかい、肌の感触。どうも膝枕をされているようだ。
「駄目じゃん、飲みすぎ!!」
口の中に 何か入れられた
「なにこれ?」
廻らない舌でしゃべった
アルデヒド分解酵素の錠剤」
何を言っているのか解らなかったがそういうもんらしい
「1時間ぐらい このままでいたげるから寝てなさい」
髪をしばらく撫でられているうちに だんだん眠くなって気が遠くなった。

眠っている間にも宴会は続いた
親分は、嬉しそうに子分達が騒いでいるのを見ている。
若頭とKAWAさんは二人しゃべっている
若頭:「先生はさすがに度胸が据わってらっしゃいますね」
KAWAさん:「これで天然だから信じられませんね」
若頭:「今晩はお泊まりいただけますか?」
KAWAさん:「残念ながら、私はそうしたいんですが 副所長はお忙しいみたいで 今晩はお帰りになられますわ 帰りには、待ってらっしゃる人も表にいらっしゃるようですし」
若頭の表情が変わった
若頭:「親分の件ですね、事務所までお送りさせて頂いてもよろしいですか?」
KAWAさん:「そうも行かないみたいです、この人は歩いて帰って 釘をさそうとしてるみたいです それに、あなた達もこのままじゃ上げた拳を下ろせないでしょ」
悪戯そうな笑顔
若頭:「そこまで、考えていて下さるんですね。4人ほどストレスが溜まっているのがいるんです」
KAWAさん「どこまで 本気なんだか・・・・」
鼻をつままれて、くしゃみと共に目が覚めた。
どうも、宴会は終わったらしい。このまま膝枕で寝てしまおう・・・・
「あっし、いったーーーい」
“ごん”
突然、足を抜かれて頭が地面に落ちた。
お陰で、すっきり目が覚めた。