伊藤探偵事務所の憂鬱 23

目を覚ましても宴会は続いていた。
薬のせいか、妙に頭がすっきりしている。
後頭部がずきずきするのは お酒のせいではなく膨らんだこぶのせいだった・・・
「いってー」

「おっ酒で 消毒」
KAWAさんに頭から焼酎をかけられた
だめだ、出来上がっている。
取りあえず頭だけは水道で洗って 帰る事にした。
KAWAさんの酔い方と、KAWAさんが頼りに成らないと解った時に “や”のつく方たちとは渡り合えない。
引き止める親分に頭を下げて事務所を出た。

勿論たっぷり夜である。
かろうじてKAWAさんを歩かせて 夜の町を歩く。
抗争の原因が片付いたので 街と空を見ながら歩いている
これで、KAWAさんが素面なら十分デートでいい雰囲気なんだろうけど まっすぐ歩いてない女性を 連れこむ趣味(度胸)の無い僕は ただ歩くだけだった。
ここ何日か、何度も通った道だけど 良かったことは何も無い道。

襲われて 車の中に連れ込まれて。
襲われて 親分さんの事務所に逃げ込んで・・・・・
決して、いいことが無かった と考えるといやな言葉が頭に浮かんだ。
「二度あることは三度ある・・・・」

振り返ったら 大男が殴りかかっている途中だった。
崩れるように倒れこんで、最初の一撃は運良くよけられた。
不意打ちが失敗したことを確認すると、男は男達になった。
一人でも逃げられる自信は無いが、KAWAさんは座り込んじゃってるし、やっぱり周りに人はいない。
余計なことを考えるんじゃなかった・・・と思っても 時既に遅かった。
“ごん”
鈍い音、どこから出したのか KAWAさんから酒瓶が男に向かって飛んでいって一人を倒した。
「やった!!」
男達は あと5人。 武器は・・・・
KAWAさんの方を見ると どこから出したか 2本目の酒瓶。
「いけー」心の中で叫んだら 酒瓶を持ったKAWAさんの手が 肩より高く上がったかと思うと 勢いをつけて

・ ・・・・ラッパ飲みを始めた。
勝つ自信は勿論無いが 飛び掛ろうとした瞬間に
男達の後ろから、見覚えのある男が4人出てきて格闘が始まった。
闇の中でも見える鋭い目は さっきまでの座敷の中でこちらを睨み付けていた目だった。

どうも役者が違うようで 決着はあっという間についた。
考えたら 一歩間違えていたら ああなっていたかと思うとぞっとする。
残った一人は 酒瓶を抱いて倒れていたから 想像は付く。
「お酒なくなったから かえろ!!」
今おきた事は 気にもせずに 手を引っ張って連れて行かれる。
「またねー」
KAWAさんは男達に手を振りながら後ろ向きに歩いている。

KAWAさん:「あたしが直接 一般人に手を出すわけにはいかなかったから お願いしちゃった。」
どうも最初から 解っていたみたいである。
ぼく:「あの二人は?」
KAWAさん:「もちろん、正当防衛」
にこっと微笑みながら ほっぺにキスをしてくれた。

その後の足取りは、さっきとは比べ物にならないしっかりしたものであった。
全部がからかわれていたように思ったが、まじめに誤解されているようである