伊藤探偵事務所の憂鬱39

「ぬりかべさん、副社長に手を貸してあげてください」
秘書室長がいなくなった今 いくら悪いことをしたとはいえ副社長が気の毒になってきた。
青ざめた副社長を抱えあげた。
arieさん:「そして、動けないようにして首を締める」
なんだそれは、悪質な冗談。
「arieさん、何てこと言うんですか」
いくら悪党でもひどい言い方だ 血も涙も無い。
知っていたはずだが、なぜか少し失望して 悲しかった。

KAWAさん:「あっ!」
arieさん:「そう 最後の一人よ」
へっ、またわからない話が。
arieさん:「ぼうや、ここにはいる前に テロリストは7人って言ったわよね。 捕まったのは6人 誰かが逃げたのよ」
KAWAさん:「捕まらない エージェントっていうのはそういうことだったんだ モバちゃんの気づいた 伝説のエージェントとしての年齢の思い込み、伝説のエージェントが伝説の中で怪我をした時の足を引きずった姿 そして異常なまでの几帳面な行動と目撃者を残さない冷酷さ そこまでしか考えなかった」
西下さん:「そう、解らなかったことは一つ。 金庫室の中に囚われていた男の正体。これで全ての辻褄があった」
何を言っているんだ それよりも副社長。
蛇のように気持ち悪く体を捻って ぬりかべさんの腕の中から抜け出した。
腕から完全に抜け出そうとしたところで ぬりかべさんは最初から掴んでる手首を握る力を強めた。
“ぼき”
鈍い 骨の折れた音。それでも力を緩めないぬりかべさん。
痛いだろうなー、握りつぶされて折れた骨を 尚握りつぶされたら。
副社長は 体を尚捻り 反対側の手で攻撃をかけたが 力ない攻撃。力があっても効かない攻撃を力なく成功するわけも無く、折れた腕で吊り下げられた。

KAWAさん:「これで 7人ぜんぶ」
えっ、副社長もスパイさんの仲間?
KAWAさん:「じゃあ、頂いて帰りますわね」
arieさん:「ちゃんと後始末と ご褒美忘れないでね」
西下さん:「ここにいると都合が悪いんで一旦引きましょう」
KAWAさんの仲間が急がしそうに働いている中を下に下りた。
天井や壁に開いた穴を除けば わずか数十分の出来事。お客さんのいるフロアーには何も影響は無かったんで混乱は無かった。

arieさん:「きゅうけい!!」
応接室に強引に入り込んで、倒れこんだ。
みんな僅か数十分の事で疲れ果てていた。
西下さん:「表の仕事は苦手だね、所長帰ってこないかな・」
arieさん:「お化粧が乱れちゃった」
ぬりかべさん:「おなかすかない?」
「・・・・」
すでに声は出なかった。擦り切れた神経が プチプチ音を立ててほつれている音が聞こえるようである。
知らない間に表情が固まっていて、意識はしていないが人を睨み付けるような視線で固まっていた。
せっかくコーヒーを入れてくれた女の子に おびえられてしまった。

小一時間たった所で気が付けばいなかった とどさんがやってきた。
とどさん:「お弁当です あれ?KAWAさんは?」
arieさん:「いま、お仕事中 でも弁当開いたら沸いてくるわよ ちょっとそこの子 お茶入れてきて」
立っている女の子に言いつけた。露骨にいやな顔をしたが おびえている様ですぐに引っ込んでお茶を入れてきた。