伊藤探偵事務所の憂鬱89

広間が用意された。
今日の朝までは、クーデターが起きてたとは思えない。
やはり、所長の言うように平和な国なのであろう。
いくら、ぬりかべさんやarieさんがすごいと言えども とても4人ぐらいで制圧できるクーデターなんて世界中探してもここだけであろう。
まあ、あの二人だったら 千人であろうが制圧したような気がしなくはないが。
「ぐあー」所長は大いびきで眠っている。
あんなにおちゃらけていても、4日間 山の中を一人で たいした装備もなく生きてきたのだから。
ただ、頭の中には南の島でバカンスする所長の絵しか浮かんでこなかった。
KAWAさんは「ミルクのおいしい国はお菓子がおいしい」と独自の理論を展開し、その研究に没頭している。
どれぐらい没頭しているかと言うと、城のコックたちが 夜のパーティの料理を作るのに支障が出るほどであった。
とりあえず、デザートのケーキが中止になったのはKAWAさんのせいである。
プリンを飲んで(食べてとは表現できませんでした)出てくる笑顔は やはり若さあふれるものである。
心配なのは、出かける時はそうであったが、帰った後もそうだろうという事である。
arieさんの怒りが目に見えるようである。
リムジンの席では、今は機嫌よさげにシャンパンを飲んでいる。
kilikoさん:「夜はパーティになるかと思いまして、何枚かドレスをご用意致しております。」
aireさん:「良くわかったわね、じゃあ、着させてもらうわ ここには良いのが無かったのよ」
実際、長身のarieさんはモデルのような体型。
中東の女性は小柄、足をきりりと見せる姿も色っぽいのだが、王妃という立場もあるのでそういった服装をするわけにはいかなかった。
kilikoさんはやはりarieさんの事を良く理解しているようだ。
kilikoさん:「ただ、王妃とは考えても無かったものですから 魅力を引き出す派手目の物しかと用意しておりません。」
微妙に“王妃”の辺りで 口をむずむずさせて笑いを堪えているようだった。
arieさん:「それで良いじゃない」
kilikoさん:「はあ、よろしいのですが 釣り合いが悪くなるかと・・・」
arieさん:「それは、ご心配ありがとう!! でも、釣り合いたくも無いから丁度良いわ」
kilikoさん:「では、後ほどご用意させていただきます」
arieさんの怒りと、kilikoさんの笑いたそうな顔。
僕は表情に困ってると
arieさん:「笑いたければ笑いなさい kiliko」
優しい声でarieさん。
kilikoさん:「勿論、笑えばお殴りになりますよね?」
arieさん:「勿論、聞くまでも無いわ」
kilikoさん:「では、我慢させていただきます」
arieさん:「たまには、素直に笑ったら」
kilikoさん:「そうですね、昔のように追っかけ回されるのも楽しいかもしれませんね」
にっこり言う。
arieさん:「却下! 逃げたら蹴るわよ」
kilikoさん:「おや、それは怖い・・・」

二人の会話が弾んでいる(と思う)。
向かいで、どうしていいか判らない ぼく。
そして、この世の終焉を迎えたwhocaさんがいた。
arieさん:「ねえ、飲まないの?」
whocaさんに シャンパングラスを差し出した。
whocaさん:「私は、神に仕える見ですから」
arieさん:「貴方の生き方をとやかく今は言わないけど 運命を受け容れるなら 笑って受け容れたらどう?」
今日のarieさんは、やたらに突っかかっているように見える。
kilikoさん:「では、オレンジジュースを用意しましょう」
kilikoさんがオレンジジュースを出してその場を遮った。
arieさん:「kiliko!」
kilikoさん:「シャンペンですか?」
arieさん:「かってになさい!」
振り返って拗ねてしまった。
kilikoさん:「では、改めてオレンジジュースをどうぞ」
whocaさん:「ありがとう」
オレンジジュースを受け取って、口をつけた。
本当に口をつけただけで、飲んではいなかった。
とても飲む気分では無さそうであった。
「あのー、僕にも」
あまりにも空気が重くなったので kilikoさんに言ってみた。
kilikoさん:「お嬢様に聞いてみないと何とも」
と言って、手のひらでarieさんの方を指した。
arieさん:「男がのどが渇いたぐらいのことでごちゃごちゃ言うんじゃない」
こちらを振り向きもせず怒鳴った。
kilikoさんは、声を出さずに笑っている。
手にはオレンジジュースが用意されていた。
kilikoさんはそのオレンジジュースを差し出した。