伊藤探偵事務所の混乱 88

arieさん:「知ってた? 砂漠って広いのよ」
丁寧に子供に教えるように僕にい言った。
「いやって言うほど 体験しました」
arieさん:「じゃあ ぼく 歩こうね・・」
肩が焼けるように痛く、足は既に棒のようだ。
もうこれ以上一歩も歩きたくない。
「もう、おいてってください」
arieさん:「だめよ、ポーターがいないと荷物が運べないじゃない」
いつにもまして自分勝手な理由である。
でも、既に二日目 もう自分では限界である。
 
盗品を持って、走り出した車は 100km程走ったところで止まってしまった。
どうも、駆動系のオイルが抜けるようにボルトが緩めてあったようで 直ぐに止まらなくしてあるあたりが嫌らしい。
荷室には、大きな水のタンクが積んであったが中身は空で、紙が入っている。それも丁寧に何ヶ国語かで。
“いい女を追っかけると、火傷するわよ!!”
読んだarieさんは、紙を握りつぶした。
arieさんはそれで全てを理解したようであるが僕には良くわからなかった。
「どういうことですか?」
arieさん:「誰か、追いかけられる事を考えた、自称“いい女”が壊していったのよ」
「自称“いい女”って誰ですか?」
聞いてみたが返事は返ってこなかった。
勿論、聞かなくても人物の特定はできていた。
盗品全ての責任を取らせた、arieさん 車を壊したerieriさん二人ともいいコンビである。
きっと、前もそうだったんだろうなと想像が付く。
笑っていられたのは最初の1時間ほどであった。
 
arieさん:「いい、憎しみのパワーをエネルギーに変えて歩くのよ!!」
励ましてくれているのか、ヤケクソなのか怒鳴り散らしている。
 
止まった車のほろを切り裂き、日よけを作った。
冷却水のリザーバー(予備タンク)のふたを開けエンジンを回し 蒸発する冷却水を蒸留して水を作る。
(しかし、この方法は正解では無かった、不純物であるアルコールは水より沸点が低く蒸留水をうっすらであるが青くにごらせた。)
「あの、青いですけど・・・」
arieさん:「水無よりは幸せよ、大体、ワインに入れるぐらいだから体に悪くないわよ」
体に悪くなければ、新聞で騒がれたりしないと思うんだですが・・・
とにかく、こういう自然の豊かなところでは、経験者に従うしかないので言われるまま働いた。
夜動き、昼間は寝てすごす。
このペースをまもりひたすらarieさんの知っている町のほうへと歩いていった。
しかし、一つだけ どうしてもサバイバル向きで無いと思うのは 奪ってきた盗品をいつまでも持って歩いていることである。
だいたい、宝石にしても装飾品にしても密度が高い物体が多く(例えば、金とかダイヤとか) いわゆる、カバンに石や鉄くずを詰めて歩いているのと同様で 使えないところではただ重いだけの重量物にしか過ぎない。
 
どんなに泣き言を言ってもarieさんは許してくれず、やはり歩くしかなかった。
後でしか気が付かないが、夜歩くことは正しい行動のようだ。
昼間の暑すぎる所を歩くことは残り少ない水を長持ちさせることに役立つし、何より、方角を見ながら歩くことになる。
コンパスがあればそれを信じて歩けば良いような物であるが、砂漠の中には磁力を帯びた岩が多く存在し コンパスだけを頼りに歩いていると同じ岩山をぐるぐる回り続けることもある。
以外に、ガソリンも役に立ち夜に道を照らすのに使えるし 火があると適当なものをくべて水も僅かながら造ることが出来るのは知らなかった。
ここまで、詳しいのは恐らくどこかの砂漠で置き去りにされた経験が生きているのだろう。
とにかく、いつどこまで歩いているのかは判らないがひたすら歩き続けた。