伊藤所長台湾に行く(伊藤探偵事務所シリーズ 番外編) その2

所長:「どう思う?」
空港で、チケットを受け取って荷物を預けるとすることが無いのが団体旅行。勿論、添乗員なんていないから 黙って待っているしかない。
コーヒーショップで、することも無く座っていたら所長が言った。
勿論、何のことかは判らない。
「何のことですか?」
所長:「僕と君、こうやってコーヒーを飲んでいるが 二人で向き合ってしゃべっている。」
「そりゃーそうですよ、上向いてしゃべっていたら ただの危ない人ですから」
ちょっと、心の中で口を押さえた。あまり所長と話をする機会が無いから、みんなの軽口が写ってしまったようだ。
「すいません、変なしゃべり方しました。」
所長:「気にすることは無いよ、それより あの二人を見てごらん」
所長の視線の先には、男二人で向き合って座っている人たちがいた。
所長:「見るときは、さりげなく見る!」
低い声で諭すように言われた。
「はい、すいません」
そういえば、車を降りるときに ぬりかべさんに「勉強しといで」と言われたことを思い出した。
いつ、いかなる時でも仕事なんだ・・・・?? じゃあ、いつもの態度は何なんだろう?
とにかく、所長の言うことに一理在る。視線を固定しないように 所長の言った方を見た。
男二人は、特に奇妙な風でもない。かなりラフな服装から仕事で無いだろう事は想像に難くない。
一人は大柄、一人は痩せ型の 30代ぐらいの人が二人である。普通の風景だと思う。
二人の机の上には、コーヒーが置かれている。正確にはコーヒーカップが置かれている。
所長:「視線をよく見てごらん」
二人は、何かお互いにしゃべっている しゃべっている内容に合わせて頷いていることから会話は成立しているようだ。しかし、二人とも、その目は机の上に置かれた小さなパソコンのようなものに向かっていた。
うちの一人は、それだけではなく手には何か手帳のようなものを持ち、時々顔を上げたかと思えば 手に持ったペンで何か書いている。
空になったコーヒーカップの底には、乾いて丸い茶色い輪が出来ている事からもかなりの時間をここで費やしていることが推理できる。
「何か、事件に関わりのあることですか?」
所長:「さあ、わからん ただ、気になったことは確かだ」
そういわれると、むずむず気になった。
恐ろしく、下手な監視で何度も所長に注意されたが、周りを気にしない、と言うか前にいる人でも気にしない人たちのおかげで 見つかることは無かった。
そのうち、髭を生やした人が合流し そのまま立ち上がった。
3人になってようやく、目線が各自の方を向き会話し始めた。
追いかけて行きたかったが、そろそろ、通関を必要となる時間である。また、このまま監視を続けていれば 今度は見つかってしまう。
やむ終えず、彼らが席を離れるのを見送った。
「所長、行ってしまいましたね」
所長:「まあ、また会うこともあるでしょう・・・」
先ほど、少しだけ見えたまじめな表情が消え いつものようなよく言えば穏やかな、悪く言えばしまりの無い表情に戻った。
成田の通関は、出発時間が重なるのか飛行機の出る時間に向けて混み始める。
並ぶのは嫌だが、遅れるわけにも行かないのでそのまま進み始めた。