Miss Lは、ローズバスが大好き 28

まるで宝島に出てきそうな古ぼけた厚い木の扉のBAR、それがウーダンの入り口。
地下一階とは言えないまでも、地下0.5階と言えるようなところに掘り込まれた入り口はランプの形をした ゆらゆら揺れる明かりが照らしていた。
地図を貰っても、一人では入れないようなところだ。
斜めにかぶった帽子に、腕に刺青をした海賊がそのまま出てきそうな所である。
そういう目で見れば、小柳刑事もそういう人がスーツを着て歩いているような人だ。着こなしているというより、はみ出さないように押さえているような状態である。
ある意味お似合いかもしれない。
中に入ると、外よりも暗く 目が慣れてくるまで見えなかった。
ゆっくりと目が慣れてくると、店の中の様子が見えてくる。
カウンターが一つ。調理場も何も無いような店。店の真ん中には小さなステージがある。
目が慣れてくるまでに唯一の指標になったのは、ステージの真ん中から時折吹き上がる炎であった。
木で作られた机もテーブルも一切の飾りも無く、厚い木の板で適当に作られたように見えるものだった。
入っても何の案内も無く、立ち尽くしていても誰も気にも留めていないようだった。
とりあえず、誰も座っていないテーブルを見つけた小柳刑事が私を案内してきてくれた。
小柳刑事:「こんなところですけど、どうぞ。Mr.Gも何でこんなところに連れて来られたのでしょうね」
「デートの演出ではないですか? 私が 「きゃ〜怖い」とかって言えばよかったのかしら?」
冗談半分答えて見た。
一瞬で、化学反応のように真っ赤になる小柳刑事。
小柳刑事:「な、何をおのみになりますか?」
うまく話題を変えたつもりでしょうが、同様が態度に出ていた。
「このお店なら、ラムかしら?」
小柳刑事:「じゃあ、買ってきましょう」
カウンターのほうに歩いていった。
それを待っている間に店の中をグルっと見回す。どうも女性客は私だけのようだ。
ただ、たった一人の女性客だからといって注目を浴びるわけでは無いのは残念である。
どうも、中央のステージではショーが始まったようである。
綺麗でスタイルのいい女性が、まるでアラブのハーレムのような福で腰をくねらせて踊り始めた。女性の目から見ても色っぽい姿である。
でも、ステージの上のショーよりも、それを見た小柳刑事の表情のほうが楽しみなのは 経験豊かな年増の悪戯心かしら?
でも、本当に色っぽくて美しい。指先にまで命が通っているかのように そして指先までが一瞬も止まることを拒否するかのように その動く場所を緩やかに動かして体全体どこかに伝わった動きはあるときは一点に集まって速く、あるときは体全部に広がってゆっくり動いている。
体全部が永久機関で、その動きが永久に止まることの無いかのように感じさせる。うまいんだこの人・・・
魅入ってしまう。
小柳刑事:「どうぞ すいませんこんなものしかなくて」
踊りに気を取られていたので、突然声をかけられて驚いた。
「あ、ありがとうございます」
お盆の上には、小さなショットグラスが二つと、大きなグラスに注がれた水。そして紙の皿に盛られた僅かなピーナッツだった。
小柳刑事:「ここにはストレートしかないそうで、水だけを用意してきました。」
まるで、教科書に乗ってそうな言葉をそのまま言ったように、勿論教科書に乗っているような事ではないですが いかにもこういった経験が無いかのように返答をした。
バーテンダーがニヤニヤしながらこちらを見ている。
「うふふ、からかわれたんですよ お店の人に」
にこっと、小柳刑事のほうにむかって言った。
「乾杯しましょ!」
小さなショットグラスを こぼれないようにそっと鳴らして乾杯をした。
本当は、小柳刑事のほうを向いて飲むべきでしょうけど、にやにや笑いながらこちらを見ているバーテンのほうにもグラスを差し出して、一気にグラスを開けた。
戸惑っている、小柳刑事にもグラスを空けるように腕を振って促した。
グラスを開けた後、空いたグラスの底をバーテンダーに見せて にこっと微笑んだ。
勿論、小柳刑事にも同じようにグラスの底を見せた。
小柳刑事:「何なんですか?これは」
「これは、儀式みたいなものです」
跳ね上げ式のカウンターのテーブルを跳ね上げて、カウンターの中から出てきた。
手にはお盆が乗っていて、その上にはボトルに入ったラム酒が載っていた。
テーブルまで来たバーテンは、肘でテーブルの上のもの全てを薙ぎ倒すかのように跳ね飛ばして、瓶をテーブルの上に置いた。地面に落ちてグラスの割れる大きな音を立てた。
そして、小さなボールに入ったピーナッツを置いて言った。
バーテン:「楽しんでるかい? お嬢ちゃん」
「店員の態度が悪い事以外、気に入ったわ」
バーテン:「違いねぇ」
笑いながらバーテンは、またカウンターの中に帰っていった。