伊藤探偵事務所の憂鬱 44

KAWAさん:「ごめんね、言っても駄目だよね」
食べ終わった後 少しうつむき加減で言った。
「結構、自分でも楽しんでいるんですよ。実力が無いからですけど 考えるとみんな助けてくれているんですよね。捕まった時に偶然武器を持っていたり 偶然やくざの事務所に入ったり。arieさんや西下さんが また盗聴器かなんか仕掛けていて 知らない間に助かるように誘導してくれているみたいだし」
もう、危ない事は起きないだろうに 事件が終わって感傷的になっているみたいだ。
「それに・・・・ 人間の本能ですかね、命を賭けるほど危険な目に一緒に会うと すごく親近感が沸いてきて。だからAWAさんも大好きですよ。親近感と言うよりも信頼ですか?
相変わらずarieさんと西下さんは信用は出来ないですけどね! あはは」
KAWAさん:「そうね、考えていてもしょうがないね 私は私の仕事をします」
「そうしてください。今のKAWAさんはいつものKAWAさんじゃないですよ!」
KAWAさん:「よーし 行ってみよう おばさん どんぶり2杯」
おばさん:「は〜い、すぐ持って行くよ もう用意してあるから」
KAWAさん:「帰ったら、みんなに旅行準備しといてと伝えといてください」
「はい、旅行準備ですか? 分かりました。言っておきます。」
KAWAさn:「じゃあ、本格的に食べましょう!!」
どうも煮え切らない状態でしたが しゃべり方はいつものKAWAさんだった。
何か引っかかりながらも せっかく元気な(ふり)のしゃべり方になったので
「じゃあ、ぼくもおかわり!」
おばさん:「馬鹿言ってんじゃないよ。あんたはお茶だけにしときな。このお譲ちゃんとは違うんだから」
せっかく覚悟を決めたのに おばさんに話の腰を折られてしまった。
KAWAさん:「あははは」
なんとなく元気な笑い声になった。

翌日、朝からKAWAさんがやってきた。
arieさん:「へーよく出来てるわねー 完全に頼りになりそうに無いところなんてそっくり」
西下さん:「流石、世界に冠たる日本のハイテク」
arieさん:「頭の中もおんなじぐらいで軽いかしら」
何の話だろう。
arieさんたちに言われて、かばんに荷物を詰めている。どこに行くつもりなんだろう?
「arieさん、旅行用の食器は銀でなくてもいいんじゃないですか?」
arieさん:「まさかあたしに プラスチックや木の食器で食べろって言うつもり? あたしが持つんじゃないんだからとっとと詰める」
「西下さん、バッテリーは9本も要らないでしょ?」
西下さん:「何を言うんだ、PCが止まったら死ぬかもしれないじゃないか。最低限 一週間分のバッテリーは必須だよ!」
荷物は、別にワゴン車を借りようかというレベルまできた。
「終わりましたよ」
事務所に入ると 見覚えの有る顔があった。
見覚えがあるのだが、名前が出てこない。
えーっと・・・・・
「あ〜っ」
目の前にいたのは紛れも無い自分自身にそっくりな人だった。
「誰ですか 彼は?」
無意識に相手が立体物であることを確かめるように触ってみた。
触った感触は生きた生物のそれだった
KAWAさん:「よく出来ているでしょ 新素材なの」
「何の冗談ですか?」
KAWAさん:「今からみんなで 所長のところに行くでしょ。でも、百貨店をお留守には出来ないので 身代わりのコピーロボットよ」
コピーロボット? あの鼻を押すと化けるやつ?
arieさん:「まがりなりにも副所長なんだから あんたの身代わりさえあれば後の人は臨時雇いでも大丈夫だから あんただけ用意してもらったの。」
「えっ、じゃあもしかして」
arieさん:「ピンポーン、今からおでかけで〜す」
もしかして、arieさんと西下さんはもう聞いてたんだ。あっ、昨日のKAWAさんの言っていたのはそういう事だったんだ。
もしかして、クーデターでドンパチやっている国に降り立って 所長を助けに行くって・・・・いまから“行かない“って言っても駄目なんだろうな。
西下さん:「じゃあ、行きますか」
時期的には少し暑い コートを着てアルミの地肌が見える中型のスーツケースを押している。arieさんは 体にフィットした光る素材の服にショールを巻いたいでたち。本人いわく 現代風天女らしい。
もちろん、言われてみればその通りという格好なんだが 普段町を歩く格好ではない。もちろん本人はそんなことは思ってないんだろうけど。
ブランドのロゴの入った小さなスーツケースも転がしている。
arieさん:「はい、あんたのやつ。心を込めて詰めたのよ」
がははと笑いながらarieさんがかばんを投げてくれた。
「えっ、さっき詰めていたのは?」
arieさん:「もっていけるわけ無いじゃない、観光に行くんじゃ無いのよ」
少し怒りがわいてきた。
とにかく出発した。