伊藤探偵事務所の憂鬱 45

車は街中を抜けて 秋葉原のほうへ かなり外れたところに有る5階建ての古びたビル。“日本貿易商事 株式会社”まで行った。
KAWAさん:「さあ、ここからは地下鉄で私のお家に行くわよ」
言いながらKAWAさんは建物の中に入っていった。
古いコンクリートにひびの入ったビル。戦後すぐぐらいに作られたであろう もともとは白いコンクリートのビル。出来た当時は白さがまぶしかったんであろうが 今は茶色くくすみ 上のほうからは緑色の着色がされていて 痛々しい。
あちこちにむき出しにして使われている 木が時代を感じさせた。
唯一、乗るのをためらわせるほど古いながらも エレベーターがあるのはこのビルの在りし日の姿を想像させて尚さびしくなる。
KAWAさんの先導でエレベーターに乗った
「何階ですか?」
ボタンを押そうとした僕を止めて KAWAさんが何か鍵のようなものを壊れて穴が開いた壁に差し込んだ。
すごい音がして、下に降り始めた。
「大丈夫ですか?」
KAWAさん:「この音はカモフラージュです 外の人たちが乗ろうとした時に壊れて動かないように見せるための。こう見えても最新型ですから安心してください」
一分ぐらい降下したところで止まった。
出たところには、十数人ぐらいが乗れるような小さなトロッコのような電車が止まっていた。
KAWAさん:「あとは、地下鉄で」
こんなものが地下にあったんだ。
線路しかない通りを列車は走ってゆく。
「どこまで行くんですか?」
西下さん:「ぼうや 日本の中で、世界中のスパイ衛星が唯一探査できない場所はどこだか知っているか?」
突然口を開いた。
「いえ、どこですか?」
西下さん:「江戸城内、つまり 今の皇居だ」
「何でですか?」
西下さん:「元々は、城と言うのは軍事目的で作られたことは知っているな」
「はい」
西下さん:「それに天皇が住まわれている。もしそこを盾に取った攻撃をされたらどうする? 例えば、テロリストに」
「されないように警視庁が専門の部隊を作って守ってるんでしょ」
西下さん:「現在の衛星の監視技術から行くと ピンポイントで攻撃することが可能だ。だから、皇居は何十にもその防御策が張り巡らされている。 もちろん、その地下にも爆弾を仕掛けられたりしないように地下鉄も通っていない。何も隠せないから 何も隠れていないとは言えないだろう」
「と、言うことは皇居の下に」
西下さん:「ましてや、天皇直属の部隊が 皇居の下に住んでいることに何の遠慮がいるだろう・・・てね」
「じゃあ、KAWAさんは?」
KAWAさん:「そうなの、探偵事務所を張っていて初めて判ったんだけど 西下さんは何度も遊びにいらしていたみたいで 良くご存知のようですね」
西下さん:「そう、回線をモニタリングしてご苦労なことです」
KAWAさん:「ただし、わざとでしょうけど。あたしたちに気がついているというメッセージじゃないかと思ってたんだけど。ハッキングしているのがあたし達の子だけだったから」
西下さん:「ほう、なかなか出来るやつがいるね。 で、こちらに侵入してきた訳だね。」
KAWAさん:「でも、プロテクトは破れませんでしたけど。特にあの“トレジャーボックス“は」
西下さん:「“トレジャーボックス”か、いい呼び名だね 次からそう呼ばせてもらうよ。もともとは“パンドラbox”というトラップなんだけど」
「西下さん、どういう事なのですか?」
さっぱり、ちんぷんかんぷんである
西下さん:「普通、プロテクトと言うのは破られないように強固に作るだろう 俺のプロテクトは 破られるように作ってある。それだけだ」
何のことだろう?
KAWAさん:「西下さんのセキュリティは、普通のセキュリティは掛かっているので普通の人には破れないけどある一定レベル以上の人には破れないほど強固なものではないんです。ただし、そこを破っている間にハッキングしてきた人たちを自動的に調べ上げることにコンピューターのパワーを使っているみたいで・・・・。破った後に情報を引き出そうとすると その国の最も困る情報を世界中にばら撒くように出来ているの。だから、強固に固めてあるのなら一つずつ時間があれば解析できるけど データーが通過することで起きるトラップを防ぐ手段が無い。勿論、コンピューターを全ての回線から孤立化することが出来ればですが・・・・きっと、そこは抜かり無くやられているだろうから手が出せないの。実際、手を出して破綻した国もあるからね」
やはりちんぷんかんぷん。
arieさん:「手を出してもいいけど、手を出したらあんたの親分の首を飛ばすか 家に火をつけようかって脅す訳よ。だから、目の前にお宝があるのに手を出せないわけ。それが、機械仕掛けで厳重に守られているだけだったら手の出しようもあるけど、手を出すのは止めずに あること無いこと言いふらしに回るからたちが悪いのでだれも怖がって近づかない。いわゆる、やくざの事務所には誰も手を出さない理論よ」
なるほど、素行の悪い人には近づかないってことか・・・・
もしかして、国が転覆するような情報をこの人たちは握ってるんだ・・・・
「西下さん もしかして、暗殺屋さんとかも来るんですか」
西下さん:「昔はね、最近は世界中の情報が集まるから 報復を恐れてだれも来なくなったよ」
やはり住む世界の違う人たちだった。